ISBN: 9784865980899
発売⽇: 2022/11/08
サイズ: 19cm/342p
「東ドイツ ある家族の物語」 [著]マクシム・レオ
両親、父方・母方の祖父母、そして祖父母の両親はどのような人生を送ったのか。ドイツの近現代を舞台に描く壮大な家族史。著者は東ドイツで生まれ育った作家だが、肉親のインタビューだけでなく、歴史家の目で戦争、ユダヤ人虐殺、冷戦、東西ドイツ分轄・統一の時代に、それぞれの縁者はどう生きたかを冷徹に見据えて作品化している。
初めに母アンネの人生が語られる。アンネはユダヤ人で、一族は迫害を受ける。東ドイツで新聞記者見習いとなるが、「プラハの春」の報道に苦悩する彼女と、ソ連進駐の妥当性を説く父ゲアハルトとの対立に、共産主義の受け止め方の違いが表れている。
著者の父ヴォルフも西側占領地区で生まれた。国防軍の下士官だった父(ヴェルナー)が、捕虜生活を終えて帰国し、暴力的振る舞いで息子の教育にあたる。ナチス軍隊の後遺症なのか。職業上、東側に住むことになったという。
著者の筆は、肉親が生きた時代と、彼らがどう時代と対峙(たいじ)したかを見て、自らの人生とも重ね合わせ、重層的な記述を試みている。
父方・母方の祖父が本書の中心になるのだが、2人は対極に位置することが読者の関心の的にもなる。父方のヴェルナーは、第三帝国時代を美しい思い出の如(ごと)く話す。ナチズム総体への自省は希薄であろう。戦後、東ドイツになってからは模範的な国民となり、「社会主義を内面化」してストイックに生きた。
母方のゲアハルトはパリに亡命し、反ナチス運動に入り、レジスタンスの一員としての活動を詳細に語る。逮捕され、拷問も受けた。それらを家族には一切話していないことが明らかになる。ベルリンの壁を正当化する理由として、ナチスなど犯罪者を遠ざける壁があるのは喜ばしいと言ったので、著者は壁の話をしないことにしたという。
本書が訴えているのは、知識人の懊悩(おうのう)の底にあった原罪なのかもしれない。
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Maxim Leo 1970年生まれ。作家、脚本家、ジャーナリスト。ベストセラーとなった本書は、各言語に翻訳された。