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学校で苦しんだ桃野雑派さんの心の支えになっていた「花の慶次」

『花の慶次』(集英社)

 デビュー前から公言しているが、田中芳樹先生の『銀河英雄伝説』と、ろくごまるに先生の『封仙娘娘追宝録』には大きな影響を受けている。小説の書き方や目指す方向性は、この二作が決定づけたと言っても過言ではない。田中芳樹先生にいたっては、ご挨拶させていただいた際足が震えていた程だ。初めてのライブでも緊張なんかしなかったのに。
 それと同じぐらい影響を受けた漫画がある。
 藤子・F・不二雄先生の『ミノタウロスの皿』と、原哲夫先生の『花の慶次 -雲のかなたに-』だ(原作は隆慶一郎先生の『一夢庵風流記』)。

 どちらも名作だが、桃野が小学生の頃、この二つをどれだけ友達に勧めても、誰も面白いと言ってくれなかった。何故この価値観がひっくり返る怖さが分からないのか、何故命を懸けて傾(かぶ)き通すことの格好良さが分からないのか、当時は本気で首をひねったものだ。
 渋すぎたのだ。
 『ミノタウロスの皿』は、人間が食用家畜として異星人に飼われている惑星の話だ。異星人の出で立ちは牛に良く似ていた。そこへ、地球の宇宙飛行士が不時着をする。宇宙飛行士は、食べられそうになる女性を助けようと試みるが、当の女性自身が拒否する。それどころか、ただ死ぬだけなんてなんの為に生まれてきたのか分からないと、美味しく食べられることを望み、実際にそうなる。宇宙飛行士は地球へ戻る道中、好物のステーキを食べながら涙を流す。
 『花の慶次 -雲のかなたに-』は、安土桃山時代に実在した傾奇者、前田慶次を主人公とした時代漫画だ。傾奇者とは、漫画内では不良やツッパリのようなものだと説明されている。だが前田慶次は、つまらないことで意地を張るようなことはしなかった。いたずらはするが、傾き通すのはあくまで大切な人のため、義理や友情、己の尊厳を守る為に力を振るった。それも、絶対権力者となった豊臣秀吉や徳川家康相手にだ。当然のことながら命懸けになる。

 ざっとあらましを説明したが、今なら分かる。小学生にこの面白さが分からなくても仕方がない。それでも当時の僕は、この二つに興奮した。
 場所が変わるだけで価値観が、誰の視点で物事を見るかによって正義と悪は変わる。命を懸けるべき所も。
 そして、命を懸けるためには力が必要であることを、二つの漫画を通して知った。
 中学で剣道部に入ったのは、力が欲しかったからだ。誰かを傷つけるのではなく、自分の尊厳を守れるようになりたかった。
 後になって、ブラジリアン柔術とサンボを始めたのも、江戸川乱歩賞を獲りにいったのも同じ理由だ。何故か昔から、実力の伴わない奴に限って絡んでくることが多かった。ちょっかいを出されないためにも、いろんな意味で力が必要だった。

 また、『花の慶次』が連載されていた頃は、教師にカルトに入信させられそうになったり、イジメにあっていた時期と被る。心の支えにさせてもらった。
 前田慶次なら、死んでも教師やイジメをする奴らには屈しない。そしていつか、こことは違う価値観の場所へ行くんだ。そう思って歯を食いしばっていた。
 最後に、『花の慶次』で一番好きなセリフで今回のエッセイを締めたい。もし気になったら、作品を読んで欲しい。
「者どもマラを出せ!!」