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「天使たちの都市」書評 周縁に追いやられた人の視点で

評者: 阿古智子 / 朝⽇新聞掲載:2023年02月04日
天使たちの都市 (韓国文学セレクション) 著者:チョ・ヘジン(趙海珍) 出版社:新泉社 ジャンル:アジアの小説・文学

ISBN: 9784787722232
発売⽇: 2022/12/05
サイズ: 20cm/249p

「天使たちの都市」 [著]チョ・ヘジン

 これまで自分の専門分野の中国関係の本を中心に選んできたが、今回は数々の文学賞を受賞し、韓国の文壇をリードしている女性作家の中短編小説を読んだ。
 私にとっては少々ハードルが高いが、「傷つきながらも声をあげられずにいる人、社会から見捨てられた人たちへの、“同感”のまなざしが光る」という帯の言葉に引かれた。
 私は中国の底層を社会学の手法で見ようとしてきたが、いくら奥深く入り込み、想像力をたくましくしても、聞こえてこない声、見えない傷がある。
 本書が収録する7篇(へん)を読み進めると、過酷な生活の中で孤独と暴力に苦しむ男女、社会の周縁に追いやられた人々の視点から、目の前に光景がすーっと広がっていくかのように感じる。
 歴史に翻弄(ほんろう)され、極東ロシアからウズベキスタンに強制移住させられた高麗人(コリョサラム)は、ルーツが韓国にあっても韓国語がほとんど話せない。3世のナターリアはロシア語ができるが現地社会に溶け込めず、ウズベキスタン人にはなれない。その上、急に公用語がロシア語からウズベク語に変わり、少数民族が解雇の対象となった。今度は結婚移民として渡韓するが、「韓国人と結婚したからって韓国人になれるわけではない」。この街にいて、悲しみもここにあるべきなのに、「この街では悲しみは目に映らない」。
 表題作で、15年ぶりに米国から一時帰国した19歳の〈きみ〉は、「自分でも自分の国籍がわからない」。〈きみ〉に殴られる韓国語教師の〈わたし〉は、「ごめん」の言葉だけでは、その欠乏感がわからない。
 巻末の一篇の〈わたし〉は、会話がほとんどないパートナーだった〈彼〉を突然の事故で失う。絶望した〈わたし〉は、〈彼〉を慕っていた生まれつき話せない巨人症の女と浜辺を訪れる。
 息苦しくなりながら読み続け、最後に出てきたナツメの木に救われた。死んだふりをしていただけで、死んではいなかったのだ!
    ◇
趙海珍 1976年、ソウル生まれ。2004年に作家デビュー。他の邦訳に『かけがえのない心』がある。