「天使たちの都市」書評 周縁に追いやられた人の視点で
ISBN: 9784787722232
発売⽇: 2022/12/05
サイズ: 20cm/249p
「天使たちの都市」 [著]チョ・ヘジン
これまで自分の専門分野の中国関係の本を中心に選んできたが、今回は数々の文学賞を受賞し、韓国の文壇をリードしている女性作家の中短編小説を読んだ。
私にとっては少々ハードルが高いが、「傷つきながらも声をあげられずにいる人、社会から見捨てられた人たちへの、“同感”のまなざしが光る」という帯の言葉に引かれた。
私は中国の底層を社会学の手法で見ようとしてきたが、いくら奥深く入り込み、想像力をたくましくしても、聞こえてこない声、見えない傷がある。
本書が収録する7篇(へん)を読み進めると、過酷な生活の中で孤独と暴力に苦しむ男女、社会の周縁に追いやられた人々の視点から、目の前に光景がすーっと広がっていくかのように感じる。
歴史に翻弄(ほんろう)され、極東ロシアからウズベキスタンに強制移住させられた高麗人(コリョサラム)は、ルーツが韓国にあっても韓国語がほとんど話せない。3世のナターリアはロシア語ができるが現地社会に溶け込めず、ウズベキスタン人にはなれない。その上、急に公用語がロシア語からウズベク語に変わり、少数民族が解雇の対象となった。今度は結婚移民として渡韓するが、「韓国人と結婚したからって韓国人になれるわけではない」。この街にいて、悲しみもここにあるべきなのに、「この街では悲しみは目に映らない」。
表題作で、15年ぶりに米国から一時帰国した19歳の〈きみ〉は、「自分でも自分の国籍がわからない」。〈きみ〉に殴られる韓国語教師の〈わたし〉は、「ごめん」の言葉だけでは、その欠乏感がわからない。
巻末の一篇の〈わたし〉は、会話がほとんどないパートナーだった〈彼〉を突然の事故で失う。絶望した〈わたし〉は、〈彼〉を慕っていた生まれつき話せない巨人症の女と浜辺を訪れる。
息苦しくなりながら読み続け、最後に出てきたナツメの木に救われた。死んだふりをしていただけで、死んではいなかったのだ!
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趙海珍 1976年、ソウル生まれ。2004年に作家デビュー。他の邦訳に『かけがえのない心』がある。