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アジアの作家9人「絶縁」テーマに短編集 村田沙耶香さん、チョン・セランさんら参加

村田沙耶香さん(左)、チョン・セランさん(右)

 村田沙耶香さんらアジア各地の作家9人が同じテーマで描いた短編小説を集めたアンソロジー(作品集)が、日韓両国で出版された。タイトルであり、そのテーマは「絶縁」。企画のきっかけは、韓国の作家による「ひとこと」だった。

多様な葛藤、この時代を圧縮 チョン・セランさん/深部に刺さる、しびれる言葉 村田沙耶香さん

 日本では小学館から出版された。村田さんのほか、日本でも翻訳が多く出ている韓国のチョン・セランさん、中国のハオ景芳(ハオジンファン)さん、タイのウィワット・ルートウィワットウォンサーさんら男女9人が作品を寄せている。いずれも1970年代後半~80年代前半に生まれた気鋭の作家たちだ。

 喪失と希望、家族のすがた、都市や社会の変容といった多彩な内容が描かれている。大半は書き下ろしで、2作品のみ発表済みの作品の初翻訳となる。

 小学館によると、当初は「日韓の作家による共作」を念頭にチョン・セランさんに提案した。すると、チョンさんから逆に提案が返ってきた、という。

 「アジアの若手作家7~9人で、同じタイトルでそれぞれが短編小説を書き、アンソロジーを出してみたい。今、思い浮かんでいるタイトルは『絶縁』です」

 そのアイデアをもとに村田さんにオファーしたところ、村田さんは「しびれるテーマ」と快諾。企画はぐっと動き始め、アジア各地から作家が集うアンソロジーに結実した。

 9月には、韓国を訪れた村田さんとチョンさんがソウルで対談し、作品集への思いなどを語り合った。

 チョンさんは作品集の冒頭で「絶縁」というタイトルについて、「私たちを取り囲むこの時代を圧縮して表現できる言葉だと思った」と記している。取材には「いろいろな葛藤があって、健全でもあれば、分裂の兆しもあるという両面を見いだせる。そんな今の時代を表すのに、『絶縁』という言葉を選びました」と話した。

 一方、村田さんもこう語った。「『絶縁』とは人間の深部に突き刺さってくる言葉で、書き手としても読み手としても、しびれました。生半可ではいかない、ずっしりと力が宿った作品が集まったと思います」

 本書を担当した小学館文芸編集室の柏原航輔さんは「作品集を出して終わりではなく、今後、アジアの作家の交流が深まるきっかけにできれば」と話している。(ソウル=稲田清英)=朝日新聞2022年12月21日掲載