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高田文夫が読む「大ピンチずかん」の魅力 コントに通じる一難去ってまた二難、三難

 私の方がずっと大ピンチである。真面目に本を取り上げるこの欄で「絵本」。それを書くのがコント作家でもある私。ピンチだ。半年ほど前、あまりに面白くてラジオでこの本のことを喋(しゃべ)ったら記者が聞いてて「書いてくれ」と。きけば2022年度の絵本の賞も沢山(たくさん)受賞し、ベストセラーになっているとか。
 何しろ表紙の少年のしくじって一瞬フリーズしている表情に心がつかまれる。紙パックの牛乳をコップにそそいでこぼしちゃった。その顔。なおもページを開くと、もったいないから顔を近づけすすって飲む。その時なんと頭でコップをたおして、またこぼしてしまう。これだ。「一難去ってまた一難」ではなく「一難去ってまた二難、三難」。

 実は手の内を明かすと、これが良いコント(ギャグ)の設定なのだ。私も若き日よりピンチに追い込むことばかりを考えてきた。「スターどっきり(秘)報告」「8時だョ!全員集合」「オレたちひょうきん族」。ピンチの手数(アイデア)が多ければ多いほど面白くていいコメディーになる。野球では「ピンチのあとにチャンスあり」と言うが、子供の世界とコントは「ピンチのあとに大ピンチあり」なのだ。様々なピンチに襲われる少年の困った顔が本当に可愛い。
 ネタばらしになるので多くは書けないが、「テープのはしがみつからない」「アイスがとけてきた」「バッグのなかですいとうがもれた」「さなぎからかえったカブトムシがよなかにだっそうしてとびまわっている」。最悪なのが「じてんしゃがドミノだおし。やっとおこしたのにおしりがあたってはんたいがわにドミノだおし」。これなぞ志村けんが演じたら爆笑だ。
 キートン、チャプリンの昔から「笑い」の基本はピンチ。経験値の少ない子供だからあわてる。パニックになる。それを皆で見て「あるある」と楽しめる絵本ならではの作品。女房と見ていて笑って、小学生の孫に見せたら「僕こんな失敗しないもん」と言ってケラケラケラ。=朝日新聞2023年2月4日掲載

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 小学館・1650円=11刷15万部。昨年2月刊。MOE絵本屋さん大賞などを受賞。「失敗を笑えるようになったとの感想も」と担当者。