1. HOME
  2. 書評
  3. 「本屋で待つ」書評 地域支え、若者の成長を見守る

「本屋で待つ」書評 地域支え、若者の成長を見守る

評者: 稲泉連 / 朝⽇新聞掲載:2023年02月18日
本屋で待つ 著者:佐藤 友則 出版社:夏葉社 ジャンル:本・読書・出版・全集

ISBN: 9784904816431
発売⽇:
サイズ: 18cm/205p

「本屋で待つ」 [著]佐藤友則、島田潤一郎

 広島県庄原市の山間の町に、ウィー東城店という書店がある。
 この書店、ちょっと風変わりで、店内には美容室、敷地にはコインランドリーやベーカリーも。店には年賀状の印刷から家電製品の修理の相談まで、地域の「困りごと」が集まってくるという。まさに地域の人々が様々な理由で寄り合う場所なのだ。
 経営者の佐藤友則氏が自身の半生とともに本書で描くのは、そうした多角経営の書店にウィー東城店が変化していった歴史である。
 本屋とは〈本質的には、お客さんがなにかを解決したいと思って、やってくる場所なのではないだろうか?〉。そう問う佐藤氏は、経営難だった店を改革し、地域の「時間」が流れ込むような場へと変えていく。そのことから〈本屋の無限の可能性〉を事実をもって示す筆致に引き込まれた。
 そして何より心打たれるのは、この店で働く若者たちの姿だ。佐藤氏は不登校や引きこもりがちな十代の若者を雇い、彼らの成長を粘り強く支える。
 例えば、その一人に妹尾さんという人が出てくる。不登校気味だった彼は高校生のとき、ウィー東城店で働き始めるのだが、最初は接客に及び腰で、朝早くの出勤にも自信が持てない。それでも佐藤氏のさりげない支えによって次第に仕事に慣れ、ついには店に欠かせない従業員へと成長していく。
 一人の若者の目に映る景色が変わり始める様子を読みながら、題名の「本屋で待つ」とはこのような意味だったのか、と思う。
 急がなくてもいい、ゆっくりでもいい。若者たちの気持ちをそっと尊重して見守りながら「待つ」ということ。そんな大人の存在が、いかに若者たちが社会へ飛び立つ上での土台になるか――。
 この社会にはもっとこのような場所があってもいい。そんな思いを抱かせる、小さくとも確かな力強さを持つ一冊だった。
    ◇
さとう・とものり 1976年生まれ。書店運営会社社長▽しまだ・じゅんいちろう 1976年生まれ。夏葉社社長。