1. HOME
  2. コラム
  3. みる
  4. 「樋口真嗣特撮野帳 映像プラン・スケッチ」 見えないものを描く、手探りするイメージに臨場感

「樋口真嗣特撮野帳 映像プラン・スケッチ」 見えないものを描く、手探りするイメージに臨場感

ゴジラが東京湾から初上陸したシーンのラフスケッチ。コンビニの場面は実際の映画には登場しない (C) TOHO CO., LTD.

 人に見せるために描いたものじゃない。「作品」でもない。見えないものを描きたい、その気持ちが、読者にダイレクトに飛び込んでくる。特撮表現を革新し続けている映画監督・樋口真嗣(しんじ)の膨大なノートからの抜粋。「シン・ゴジラ」や「シン・ウルトラマン」、「進撃の巨人」など、収録してあるのは緊迫したシーンばかりだ。驚愕(きょうがく)の一瞬を逃さずスケッチしたようだが、実際は著者の脳内にしかないイメージ。描くことで、イメージをはっきりさせようと手探りする、そんな臨場感がある。つまり、緊迫しているのは著者自身でもあるわけだ。コクヨの測量野帳(やちょう)をポケットに忍ばせているのは、いつでも描けるから。描かないと、アイデアは姿を見せず、消えてしまうからだ。「頭を通過したものはとりあえず吐き出してみるんです」と、巻末のインタビューで語る。

 ビルはどう壊れ、人はどうやって逃げ、どう映像化すれば現代の東京、今の日本になるのか。ゴジラは街を破壊しているが、その「破壊している」を生み出すには、紙に線を引かなければ始まらない。完成した映像は音や俳優の演技など様々な要素で成り立っている。だが、ここにはそれ以前の、シンプルな「絵の力」がある。想像力をエネルギーにして、躍動する線が、フィクションという測量不能な世界を駆け抜けていく。=朝日新聞2023年2月18日掲載