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風木一人さん&たかしまてつをさんの絵本「とりがいるよ」 いろんな鳥を見つけてみて

『とりがいるよ』(KADOKAWA)より

思わず目を引くシンプルな面白さ

―― たくさんの白い鳥の中に、一羽だけ赤い鳥。ページをめくると、青い鳥や大きな鳥、小さな鳥も見つけることができる。色や大きさ、形の違う鳥を探したり、何羽いるか数えたり、次はどんな鳥が出てくるのか想像したり。『とりがいるよ』(風木一人・作、たかしまてつを・絵、KADOKAWA)は、やさしくシンプルな語りかけとカラフルなイラストが人気の赤ちゃん絵本だ。

風木一人(以下、風木):白い鳥の群れに、一羽だけ赤い鳥が混ざっていたら、とても目立ちますよね。『とりがいるよ』は、そんなビジュアルのアイデアが原点となって生まれました。大人でも子どもでも赤ちゃんでも、ひょっとしたら動物でも、思わず目がいくようなシンプルな面白さなので、これは赤ちゃん絵本にできるなと思ったんです。

 僕は絵本の文章作家ですが、『とりがいるよ』の面白さを伝えるためには、絵で見せる必要がありました。それで、パソコンで簡単な絵を描いて、絵本のダミーを作ったんですね。ちょうどその頃、池袋のギャラリーで展覧会を開催するタイミングだったので、会場の片隅にそのダミーを置いてみました。編集者さんの目に留まれば、というつもりでした。

風木さんの描いたダミー本(左)と、完成した『とりがいるよ』(右)

たかしまてつを(以下、たかしま):僕はそこで、ふとそのダミーを見つけたんです。「とりがいるよ」と、タイトルに呼びかけられたような気がして。「ほんと? じゃあ見てみようか」と。

 読んでみたら、すごく心惹かれたんですね。赤ちゃん向けとはまったく思わなくて、多様性をテーマにした絵本なのかなと。衝撃を受けたのが、中盤の「ながーい とりが いるよ」のページ。首が長い鳥とか、尾が長い鳥はいるけれど、ただ長い鳥って聞いたことないですよね。しかも絵が、鳥の胴体をきゅーっと引き伸ばしたようなビジュアルで、あまりの面白さに思わず二度見してしまって。

『とりがいるよ』(KADOKAWA)より

 この絵は絶対に自分が描きたい!と思って、その日のうちに「描かせてください」と、ラブレターのようなメールを風木さんに送りました。自分から描かせてほしいとお願いしたのは、僕にとって初めてのことでした。

風木:絵描きさんからアプローチがあるとは思いもよらなかったのですが、たかしまさんの絵を想像しながらダミーを見直してみたら、とてもしっくりきたんですね。それですぐ、ぜひお願いしたいと返信させてもらいました。

何度読んでも楽しめるように

―― 絵本制作にあたって、たかしまさんはさまざまな画材で鳥を描き、絵柄の試行錯誤を重ねた。

風木:手描きもそれぞれ魅力的でしたが、この絵本の面白さが最大限に生きる絵はどれか相談して、デジタルのシンプルな絵となりました。

たかしま:デジタルだと、たくさんの鳥をコピー&ペーストで簡単に描くことができるんですが、実際はコピペした上で、1羽1羽少しずつ手を加えたり、位置をちょっとずらしたりと、微妙な変化をつけています。僕は普段のイラストだと少しくすんだトーンを選びがちなんですが、赤ちゃん絵本なのでより鮮やかな色で描くようにしました。

『とりがいるよ』(KADOKAWA)より

――「あおい とりも いるよ」のページには、青い鳥以外にも、うしろを振り向いている鳥の姿を見つけることができる。他にも、転んでしまった鳥や葉っぱをくわえた鳥などを“おまけの鳥”として描いた。

風木:まずは青い鳥や大きな鳥など、各シーンのメインとなる鳥を見つけて楽しんでもらいたいんですが、二度目、三度目と読み返したときに初めて発見する何かがあったら、もっと面白いですよね。それで、一番目立つ鳥の他にも、おまけの鳥を入れることにしました。

たかしま:ただ、メインの鳥よりおまけの鳥の方が目立ってしまうとまずいし、かといっておまけの鳥に最後まで気づいてもらえないのもつまらない。そのさじ加減が難しかったですね。あるシーンでは最初、たまごを産んでいる鳥を描いていたんですが、制作途中の絵本を試しに保育園で読み聞かせしてもらったら、子どもたちはページをめくった途端、メインの鳥より先に「たまごー!」と反応していて。

風木:たまごはちょっと目立ち過ぎだとわかったので、別の案として、たかしまさんがちょうちょを描いてくれました。

王道ではない1作目、王道の2作目

―― 赤ちゃん絵本は、「いないいない」でめくって「ばあ」と展開するような、2場面1単位を繰り返す構成が王道とされるが、『とりがいるよ』はそれには当てはまらない。

風木:「たくさんの鳥の中に一羽だけ違う鳥がいる」というアイデアを最優先で考えたら、セオリーから外れた構成になりました。顔の向きについても、赤ちゃん絵本の定石通りにするならば、基本は正面顔なんですよ。その方がわかりやすいし、親しみも湧きますからね。でも『とりがいるよ』はすべて横向き。あえて正面を向かせなかったんです。赤ちゃん絵本はどうしても似たような展開になりがちですが、ひと味違う赤ちゃん絵本を作れたと手応えを感じています。

―― シリーズ2作目『たまごがあるよ』は、打って変わって王道の展開。たまごから生まれてくるひなもすべて正面顔だ。

風木:シリーズ続編は、単純に鳥を別の動物に代えて『ねこがいるよ』『いぬがいるよ』みたいなものも考えたんですが、それだと『とりがいるよ』を超えることができません。あれこれ悩んでいるうちに思いついたのが「いる」を「ある」に変えること。同時に「たまごが割れて何かが生まれてくる」という面白さが思い浮かんで、『たまごがあるよ』の発想につながりました。

『たまごがあるよ』(KADOKAWA)より

 たまごからヘビやカメ、恐竜など、いろいろな生き物が生まれる絵本は他にもあるので、『たまごがあるよ』では鳥だけにしています。鳥だけでも飽きのこない、面白い絵本が作れるということは、『とりがいるよ』でも経験済みでしたからね。

 あとは『とりがいるよ』と同じで、基本のアイデアが一番生かせる形を考えていくうちに、自然と王道の展開になりました。

たかしま:鳥の正面顔をどう描くか、かなり悩んだんですが、鳥の写真をたくさん見るうちに、正面から見るとくちばしの先端がV字になっていることに気づいて、これだ!と。にっこり笑っているようにも見える、かわいいひなが描けました。

――『たまごがあるよ』は、「とんとんって たたいてみて」と読者に呼びかける参加型の絵本でもある。

風木:2010年に出版された『まるまるまるのほん』(ポプラ社)を見てから、自分もいつか参加型の絵本を作ってみたいと思っていたんですね。7年たってようやく作ることができました。読者の方々からは、子どもたちが一生懸命「とんとん」「なでなで」している様子をたくさんご報告いただいています。その姿を想像するだけで、とてもうれしくなりますね。

―― 3作目『いっしょにするよ』も合わせた3冊セットのギフトボックスは出産祝いなどのギフトにも人気だ。

風木:『とりがいるよ』シリーズは、色や数、形、大きさといった基本的な概念に触れられる絵本です。でも僕は絵本作家として、絵本のいいところは単なる知識の習得ではない点だと思っているんですね。

 大事なのは、そこに喜びがあるかどうか。ただ知るのと、喜びをもって知るのは全然違います。世界にはいろんな色があること、その一つひとつに名前がついていること。そういう事実をただ知るんじゃなくて、喜びや驚きとともに知ってほしい。それができるのが絵本の素晴らしいところではないでしょうか。