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磯田道史「日本史を暴く」新説や新発見がぎっしりと

 大河ドラマなどの歴史時代劇で描かれる時代と言えば、戦国時代か幕末維新と、最近は、おおよそ相場が決まっている。

 理由は歴史小説などの題材として盛んにとりあげられてきたため、登場人物になじみのある名前が多く、視聴者が入り込みやすいこと。もう一つは同じ理由から、コアな歴史ファンがすでについていることだ。

 本書は歴史番組などのコメンテーター・モデレーターとして、すっかりおなじみになった歴史学者、磯田道史(みちふみ)・国際日本文化研究センター教授が2017年から22年にかけて新聞に連載したコラムをまとめたもの。

 「暴く」とまで言えるかどうかは微妙だが、教科書には書かれていない日本史の新説や新発見が、これでもかというほど、ぎっしり詰め込まれている。

 1582年に起きた本能寺の変で討たれたまま行方不明となった戦国武将・織田信長の遺骸が、実は本能寺近くの阿弥陀寺の僧侶によって収容され、同寺に葬られていたという史料があるとの話は、その真偽は別として、どきっとさせられた。

 さらに「豊臣秀吉の子とされる秀頼の実父は祈禱師(きとうし)だった可能性が高い」とした服部英雄・九州大学名誉教授の説を踏まえながら、父親の名を史料で追いかけ、当時の公家の日記に出てくる、ある人物に注目するくだりには思わず引き込まれた。

 このほか、本草学者で儒学者の貝原益軒がカブトムシを嫌っていた話や、初代首相・伊藤博文と安芸の宮島をめぐるエピソードまで、全4章のうち2章を戦国と幕末維新に割きつつ、自らの専門の近世史や最近関心が高まっている感染症史などについても、幅広く目配りしている。

 本書には筆者が古書店などで新史料を見つける話が数多く出てくる。それも含め、読了して、筆者は本当に歴史とそれを物語る史料が好きなのだと感じた。時代を問わない、歴史番組での奔放な発言の原動力は、きっとそのあたりにあるのだろう。=朝日新聞2023年3月18日掲載

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 中公新書・924円=5刷21万部。昨年11月刊。購入者は「男女が半々くらい。幅広い層に読まれているようです」と担当者。