ベストセラー・ランキングで新宗教教団の指導者の著作をよく見かける。これは、信者が自分で何冊も購入して知人等に献本し、その指導者の思想や教団の教えを広めようとする布教(宣教)の現れである。「布教・宣教」という切り口から、新宗教の特徴を考えてみたい。
日本では1970年代以降、新宗教研究が大きく進展した。その成果をまとめたのが、井上順孝・孝本貢・対馬路人・中牧弘允・西山茂編『新宗教事典』(弘文堂・品切れ)である。新宗教の歴史や特色が体系的・網羅的に整理され、基礎資料が収録されている。
新宗教とは何かをわかりやすく解説したのが、島薗進『新宗教を問う』である。その歴史は19世紀初めから始まり、大きな勢力に発展したのは1920年代から60年代までだったと島薗は説明する。新宗教は病気なおし(現世利益)、心なおし(自己変革)、世直し(社会変革)によって、現世での救済をめざすという特徴がある。一般信者が活発に信仰活動を行い、布教の担い手になるという指摘も重要である。
メディアと選挙
戦前の新宗教で活字メディアを用いた宣教に熱心だったのが、神道系の大本である。その軌跡と活動は、川村邦光『出口なお・王仁三郎』に詳しい。
王仁三郎は新聞・雑誌の刊行や展覧会の開催、映画の製作など、積極的なメディア戦略を展開した。第1次世界大戦の勃発後、自前の印刷所を設けて出版事業に着手。文書宣伝と街頭宣教、公開講演によって教勢を伸ばした。
25年創刊の「人類愛善新聞」は、34年には100万部の発行部数を数えた。永岡崇によれば、この新聞を信者(信徒)が一部ずつ売ることは「救世の神業」と位置づけられていた(大谷栄一他編著『日本宗教史のキーワード』慶応義塾大学出版会・3190円)。出版と信仰、宣教が結びついていたのである。
日本最大の新宗教教団は、仏教系の創価学会である。戦後に急成長し、現在の国内会員数は公称827万世帯。櫻井義秀・猪瀬優理編『創価学会』は、最新の研究成果である。創価学会は公明党の支持団体であり、櫻井によれば、選挙を通じた政治参加こそが創価学会の成長と勢力維持の核心にある。
猪瀬は、学会員一人ひとりの選挙支援活動を分析している。創価学会の公式見解としては、「宗教的目標」を達成するための「手段的目標」として、公明党候補者の支援がなされる。選挙支援は信仰と結びつき、非学会員に投票を働きかけることで、布教にも関連する。
ただし、猪瀬は学会員の考える「選挙活動と信仰」の関係には幅があるとして、信仰証明の場から個人の判断まで八つのバリエーションを提起し、信者の解釈の多面性を示す。
戸別訪問を重視
島薗によれば、70年代に発展した新宗教教団は現世否定的な傾向が見られ、新新宗教と呼ばれた。その一例として、キリスト教系のエホバの証人が挙げられている。山口瑞穂『近現代日本とエホバの証人』(法蔵館・3300円)は、その展開過程と特徴を初めて実証的に明らかにした研究である。
日本のエホバの証人は70年代半ばから90年代半ばに伸張するが、それを支えたのが、信者たちの宣教活動である。海外と比べた場合、日本支部の特徴は、戸別訪問等の宣教活動を優先する信者(開拓者)の多さと宣教時間の長さである。その宣教のあり方が世界本部との関係から分析されている。
昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件以降、宗教2世問題が顕在化し、あらためて新宗教が注目されている。これらの研究の成果を通じて、新宗教に関する理解が深まればと思う。=朝日新聞2023年4月15日掲載