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恩田雅和「落語×文学 作家寄席集め」 文学の底に流れる落語

 二葉亭四迷が文章をどう書くか迷い、坪内逍遥に聞くと「(三遊亭)円朝の落語通りに書いてみたらどうか」。そんなおなじみの話にとどまらず、発見が多いのが、恩田雅和著『落語×文学 作家寄席集め』だ。
 著者は大阪・天満天神繁昌亭の元支配人で、今はアドバイザー。学生時代から落語を聞き続け、和歌山放送に勤めて地域寄席を開き、定年後は大学院で漱石文学への落語の影響を研究した。蓄積が生きている。

 『坊っちゃん』を、ひいきの落語家・蝶花楼馬楽(ちょうかろうばらく)に直接贈呈した志賀直哉。「書け。落語でも、一口噺(ひとくちばなし)でもいい。書かないのは、例外なく怠惰である」と記した太宰治。母方の祖父を「(古今亭)志ん生の落語と相撲の好きな人」と書く向田邦子。その志ん生を「滑稽噺だけではなく、円朝以来の人情噺がうまく、そのくせ噺を押しつけるようなくどさはなかった」と説いた司馬遼太郎。父親と新宿末広亭に行ってから「ラジオの寄席番組を欠かさず聞くようになり、古い落語しか受けつけ」ない少年になった古井由吉。そして、「僕は文芸作品よりも、現代落語を書いているという気持ちが強いんです」と話した西村賢太まで。
 リズムやおかしみなど、落語が底に流れていると感じる文章は多い。未踏のテーマだと思う。(石田祐樹)=朝日新聞2023年4月15日掲載