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横関大さんの創作の原点にある映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」

映画の中で「未来」とされた2015年10月21日に合わせて、埼玉県越谷市のイオンレイクタウンで公開された「デロリアン」。日本環境設計(東京都)などが製造し、古着から作った燃料で駐車場内を走行した=遠藤啓生撮影

 なんだかんだ言って〇〇っていいよね、と思うことが日常生活では多々ある。最後に辿り着くべき場所とでも言えばいいのだろうか。馴染みの定食屋でいろいろなメニューにチャレンジした結果、最終的に定番のサバの塩焼き定食に落ち着いたり。読者の皆さんもわかる人はわかるはずだ。

 映画もそうだ。一応物書きという職業柄、編集者と映画談義に花を咲かせることはよくある。「横関さんって10代の頃にどんな映画をご覧になっていたんですか? どんな作品に影響を受けたんですか?」といった類いの質問を受けたことは数知れず。この手の質問をされたとき、意外に答えるのは難しい。自分の技量を推し量られてしまうのではないか。そんな風に深読みしてしまうからだ。ではどう答えるのがベストだろうか。

「やはり僕はデヴィッド・フィンチャーですね。『セブン』や『ファイト・クラブ』などは大好きですね。世界観も含めて。ああいうラストにカタルシスがある……」

 悪くない。ミステリー作家として、江戸川乱歩賞作家としてはベストな回答ではないか。ただし、ちょっと固い。この人、実はサイコなんじゃないの? そんな風に思われてしまっては心外だ。ではこんな感じはどうだろう。

「僕が好きなのは『天空の城ラピュタ』です。いや、ジブリ作品は全部好きですね。特にラピュタが大好きです。飛行石を光らせる呪文? もちろん知ってます。リーテ・ラトバリタ……」

 女性受けはよさそうだが、社会に迎合しようとしている感が否めない。私は長年この手の質問を受けたときのシミュレーションを脳内で重ねてきたのだが、模範的な回答を導き出せずにいた。そして数ヵ月前、たまたまテレビを点けたら映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をやっていた。途中からだったが最後まで観て、勢い余って動画配信サービスに飛んで字幕版を最初から視聴した。そして思ったのだ。なんだかんだ言って『バック・トゥ・ザ・フューチャー』っていいよね、と。

 おそらく初めて観たのは小学校高学年くらいの金曜ロードショーか。一緒に観た弟が興奮状態になり、夜中に泣いていたのをよく覚えている。

 今観ても完璧なエンターテインメントだ。タイムマシンというワクワクする設定。マーティーとドクのユーモラスなかけあいと、スリリングな展開。果たしてマーティーは現代に戻れるのか。こんなに楽しい映画はほかに知らない。今書きながら思ったのだが、もしかすると私の創作活動における原点にもなっているかもしれない。

 秀逸なシーンはそれこそ数え切れないほどある。たとえば冒頭シーン、犬のアインシュタインがタイムトラベルの実験体にさせられる。小学生だった私は腹を抱えて笑ったものだ。うわ、初のタイムトラベラーが犬って(笑) 実は撮影に使われたのは本物の犬ではなく、着ぐるみを着た人間だったという撮影秘話がある。動物愛護団体に配慮してのことだったとか。

 そしてラストシーン。タイムマシンであるデロリアンを復活させた(未来の)ドクは(現代の)マーティーに向かって言う。「30年後にまた会おう」と。これはこれでかなりいいシーンであるが、別の意味で私の心に刺さった。10代の頃にこの映画を観ていた私が、およそ30年の時を経て、見事なおっさんになってこの映画を観返しているのだ。30年後にまた会おう。ドクの言葉は私に向けられたメッセージだと思うのは考え過ぎか。

 公開は1985年だ。若い人の中には未見の方もいるかもしれないが、絶対に観ることをおすすめする。かつて何度も観た中年諸氏も、是非改めて観てほしい。きっとこう思うはずだ。なんだかんだ言って『バック・トゥ・ザ・フューチャー』っていいよね、と。