アナログだから、テクノロジーが介在する余地がある
「透明書店」は都営地下鉄大江戸線蔵前駅から徒歩1分の、住宅や商店が立ち並ぶ一角にあります。運営するのは、クラウド型経理・会計ソフトなどを販売する企業「freee」(本社・東京)が設立した子会社。freeeの主な顧客でもあるスモールビジネスの現場を社員らが実際に経験することで、商品開発に生かしていくのが第一の狙いです。
ではなぜ書店? 主にオンラインのサービスを展開しているfreeeとは対照的に、書店はリアルの在庫を多く抱え、しかも数多くの種類を少量ずつ仕入れなければなりません。商品発注にFAXが使われ、スリップと呼ばれる細長い紙の札をはさんで在庫を管理するなど、アナログな手法が根強く残る業界でもあります。ここにテクノロジーの介在する価値があると同社は見込んでいます。
約70平方メートルの店舗の棚に並んだ蔵書は約3000冊。ビジネス書だけでなく、文学や漫画、絵本なども並んでいます。「大きな利益を上げるというより、スモールビジネスとして維持することが目標。ベストセラーだけ並べてもネット書店には勝てない。ここに来るからこそ出合える偶然性を大事にしたい」と共同代表を務める岡田悠さん。
目玉は店頭で接客してくれる副店長の「くらげ」。縦型のディスプレーとパソコンが置かれ、質問を投げかけると、店の売れ筋やオススメの本などを、店の蔵書データベースなどを参照して教えてくれます。いずれは売り上げや労務管理、発注などにも応用し「人工知能CFO(最高財務責任者)」に育てていくのが目標。開発責任者の木佐森慶一さんは「本当に役立つかは実験しながらの課題。失敗も含めてノウハウを溜めてプロダクトにしていきたい」。
東京・下北沢で「本屋B&B」を経営し、独立型書店の開業指南などもしている内沼晋太郎さんは、透明書店のアドバイザーとしてコンセプト作りや選書、店舗探しなどに関わってきました。「独立系書店はPOSレジが導入できない店も多いなど、テクノロジー導入は課題の一つ。選書AIなどはこれから一般化してくる可能性もある。透明書店の経営を通じて書店向けツールなども開発されれば、小規模な書店や出版社の業務効率化につながっていく。書店などスモールビジネスを始めたい人のたまり場になって、エンパワーしてくれる存在になってくれれば」と期待を寄せています。
当面は店長1人と「くらげ」が常駐。「くらげ」のディスプレーにはその日の売り上げ達成率が表示され、スモールビジネスを目指す人の参考になるよう、売り上げ状況などの数字をnote で公開していくなど「透明」を目指しています。書店を開いてみたいと思う人が訪ねてみると、思わぬ発見があるかもしれません。