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「チェコスロヴァキア軍団と日本」書評 緻密に描く第1次大戦の表と裏

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2023年05月20日
チェコスロヴァキア軍団と日本 1918−1920 著者:長與 進 出版社:教育評論社 ジャンル:外交・国際関係

ISBN: 9784866240770
発売⽇:
サイズ: 20cm/287p

「チェコスロヴァキア軍団と日本」 [著]長與進

 本書は二つの了解をもとに読むとわかりやすい。ひとつは、1918年のシベリア出兵について、歴史的当否を加えていないこと。もうひとつは、17年12月から20年7月まで発行された「チェコスロヴァキア日刊新聞」を読みこなして、日本とチェコの関係を丹念に追いかけ、その近接性と対峙(たいじ)を実証したことだ。
 この新聞は、ロシア・シベリア・ロシア領極東地域に駐留していたチェコ軍団兵士を読者とし、発行部数は最盛期で約8千部だったという。著者は、その創刊号から終刊号までを読み、兵士に母国の情報を伝え、日本を紹介するなどの内容を分析している。
 シベリア出兵は、ロシア革命に干渉するため、チェコ軍救援の名目で日本が米英などと兵を出した。第1次世界大戦でオーストリア・ハンガリー帝国の側で戦わされていたチェコ軍は、分離独立を目指しており、潜在的には連合国の同盟国でもあった。自国に戻って連合国の一員として戦うために、ロシア極東地域にいた軍団の撤収は19年初頭に始まった。米英日などの援助による帰国であった。
 日本とチェコの関係は一気に親密になり、チェコ軍団は日本から武器弾薬の支援や、傷病兵の治療を受けた。日刊新聞の日本についての記事は、兵士の優秀性や街並みの清潔さ、国民の礼儀正しさなどを描いている。チェコでは日本への感謝が広がっていたようだ。
 一方、両者は政治レベルでは緊張関係をはらんでいた。関係が悪化したのは、20年3月、イルクーツク以東の日本軍の影響圏にチェコ軍団が入り、対立状態になったからだ。そこで起きた銃撃戦(ハイラル事件)などの処理をめぐって、軍団と日本の関係も極めて微妙になった。
 本書は、日本とチェコの関係に投影された第1次世界大戦の表と裏を巧みに描き出している。その緻密(ちみつ)さと洞察の深さは、シベリア出兵の見方に歴史的重みを加えている。
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ながよ・すすむ 早稲田大名誉教授。専攻はスロヴァキアの歴史と文化。著書に『スロヴァキア語会話練習帳』など。