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人間の感覚とは何であるかを問う「からだの錯覚」 佐藤健太郎が選ぶ新書2点 

『からだの錯覚 脳と感覚が作り出す不思議な世界』

 我々は視覚や触覚など、いわゆる五感でこの世界を認識し、得られた情報を信じて生きている。だがそれは、どれほど確かなものなのだろうか。小鷹研理(こだか・けんり)『からだの錯覚 脳と感覚が作り出す不思議な世界』(講談社ブルーバックス・1100円)には、自分の感覚に対する信頼が揺らぐような、不思議な錯覚の実験が多数紹介されている。ちょっとした操作によって、自分の指が長く伸びたとか、硬い石のようになったという錯覚が、いとも簡単に起こせるのだ。人間の感覚とは何であるのか、また来(きた)るべきメタバースの時代を考えるためにも、読んで、また感じておきたい一冊。
★小鷹研理著 講談社ブルーバックス・1100円

『増えるものたちの進化生物学』

 市橋伯一(のりかず)『増えるものたちの進化生物学』(ちくまプリマー新書・880円)は、書名だけ見ると普通の生物学の解説書かと思ってしまうが、実はちょっとそれとは色彩を異にした本だ。
 人間は、生きていく上で人間関係、健康、なぜ生きるのかなど様々な悩みに直面する。これらの悩みのもとをたどれば、「増える」ということを最優先に目指してきた、生物としての戦略に行き着くと筆者は説く。そして、学習によって本能を超えた行動ができる人類には、悩む必要のない問題も多いと指摘する。日ごろ悩み行き詰まる人に、科学の目という新たな視点を提供してくれることだろう。
市橋伯一著 ちくまプリマー新書・880円=朝日新聞2023年5月20日掲載