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「たぬきの本」書評 生き物? 焼き物? 化け物? 学際的に徹底研究

評者: 長沢美津子 / 朝⽇新聞掲載:2023年05月27日
たぬきの本 里山から街角まで 著者:村田 哲郎 出版社:共和国 ジャンル:動物学

ISBN: 9784907986308
発売⽇: 2023/04/30
サイズ: 19cm/253p

「たぬきの本」 [著]村田哲郎、中村沙絵、南宗明、上保利樹、萩野(文)賢一

 気になったものを穴があくほど見つめた人たちが、突き抜けた先で見つけた言葉は深い。たぬきについてあまりに細かい問いと答えに読みながら何度も噴き出したのに、気づくと人間社会をまじめに考えている。
 化かされたのだろうか。
 山奥の野生は持たず、里で飼いならされもしない。お話の世界では、愛嬌(あいきょう)もあれば時に人をだまして多面的。独特の距離感で存在するたぬきに、身近な「生き物」、街角の「焼き物」、描かれる「化け物」という3形態から本書は迫った。
 おなじみの縁起物・信楽狸(だぬき)が、とっくりに加え招き猫まで手に持って、景気の先行きへの不安にこたえていたとは。細部に真実も現実も宿る。「日本たぬき学会」前会長は「狸は時代を映す鏡」だと言い切る。
 生態や造形美を示す写真や図表はふんだん、参考文献もびしっとおさえてある。群れずに平和を求める「狸心」で連帯する学際的研究の次なる成果を、腹鼓をたたいて祝いたい。