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解毒週間 千早茜

 Twitterをやっている。自分のアカウントページを見ると「2011年2月から」と表示されているので、もう干支(えと)をひとまわりしている。こんなにも長くやっているのかと驚愕(きょうがく)した。

 もともとは新刊などの宣伝をするためにはじめた。『わるい食べもの』という食エッセイの連載がスタートしたとき、私のような特徴のない小説家の食事情なんて興味を持たれないだろうと危惧し、せめて日常の食でもと好きな菓子や茶をツイートするようになった……はずであるが、どうも記憶がぼんやりしている。SNSをやっている動機が定かではないまま、毎日のように食のツイートをし、『わるい食べもの』も三巻まで刊行してしまっている。

 これは由々しき事態では。もしかしたらSNS中毒になっているかもしれない。ちょうど一週間ほど休暇を取る予定だったので、その間Twitterをやめてみようと担当編集さんたちに話すと「デジタルデトックスですね。いいと思いますよ」と言われた。なるほど、解毒。

 休暇に入る前日の晩に、その旨をツイートして、次の日からは見るのもやめた。落ち着かなくなるかと思ったが、あんがい平気で、いつもより読書に集中できた。食べものの写真は相変わらず撮り、メモもとっていた。食へのモチベーションに変化はなかった。自分は人に見せたいから食べているわけではなく、美味(おい)しいものを追いかけて記録したいのだとわかり、心から安堵(あんど)した。ああ、私はちゃんと食を愛せている。

 とはいえ、ときどきTwitterを見てしまった。友人たちがどう過ごしているか気になったからだ。面白いツイートについコメントもつけてしまった。「元気にしてる?」とわざわざ連絡するほどでもないが、小さなつながりは感じ続けていたい。そういう気持ちにSNSは寄りそってくれる。

 あれば楽しいが、ないならないでいい。自分はそんな距離感でSNSをやりたいと思う。=朝日新聞2023年6月7日