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新たな視点で民俗学者の思想とらえる「宮本常一 歴史は庶民がつくる」 杉田俊介が選ぶ新書2点 

『今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる』

 畑中章宏『今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる』(講談社現代新書・880円)は、日本列島を隅々まで歩き回りフィールドワークした民俗学者の入門書的一冊。宮本は民具や物流に注目し、柳田国男の民俗学とはまた異質な、歴史に記録されず消えていく庶民たちの「生活誌」の地平を切り開いた。畑中は宮本がアナーキストのクロポトキンに強く影響された点に注目。庶民は黙って搾取される存在ではなく、生き生きとした相互扶助性を形成してきた。そこからは閉じた排他的な場とされがちな「世間」が、複層的な公共性をもった場として見えはじめる。
★畑中章宏著 講談社現代新書・880円

『柄谷行人「力と交換様式」を読む

 柄谷行人ほか『柄谷行人「力と交換様式」を読む』(文春新書・1100円)は、近年国際的評価も高い柄谷思想を多角的に検討。柄谷は観念論/唯物論の対立を転倒させ、交換様式論を展開し、それをA=ネーション(贈与と返礼)、B=国家(略取と再分配)、C=資本(貨幣と商品)、D(Cの先に高次元で回復される互酬的交換X)に分類した。Dとは宗教ではないが「霊的な力」であり、将来必ず「向こうからやってくる」という。オカルトすれすれの柄谷のコミュニズム論の力に、様々な論者が憑依(ひょうい)されつつ、それを各々(おのおの)の具体的現場に翻訳すべく苦闘する様は、スリリングでもある
★柄谷行人ほか著 文春新書・1100円=朝日新聞2023年6月10日掲載