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絵本ナビ編集長・磯崎園子さん「はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで」インタビュー 絵本と年齢の関係とは?

磯崎園子さん=北原千恵美撮影

絵本ナビの蓄積データと子育ての経験をもとに執筆

――20年蓄積された「絵本ナビ」のレビューをもとに『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』を出版したということですが、そのきっかけから教えてください。

 2021年、月刊『こどもの本』(日本児童図書出版協会)という業界誌に「絵本と年齢をあれこれ考える」というタイトルで1年と2カ月、連載をさせていただいたことがきっかけでした。対象年齢を0歳から始めて、大人まで計14回。本書はそれにコラムなど新しい要素を加えて1冊の形にまとめたものです。

 当初、年齢で区切ることは、絵本と出会うチャンスを減らしてしまわないかという戸惑いもありました。ある書店員から、年齢別に絵本を紹介したいけれど「それは小さな子向けだからやめなさい」と親が子どもに言うのを見るのは悲しいという声を聞いたこともあります。それでもこのテーマで書くことに至ったのは蓄積されたデータに加え、自分自身が子育てをしながら感じたこと、今、絵本を読んでいて感じることを総動員すればできると思ったからです。

 執筆にあたり「立ち始めたとか、歩き始めたときはどんな感じかな」と、できるだけ子どもの視点に立って、改めて絵本を読んでみることにしました。このように1カ月に約1年齢ずつ、年齢と絵本との関わりについて向き合いながら連載を書き続け、それが今回この本の中でつながったと思っています。ふだんインターネットを見ない方でも絵本の楽しみ方や、「絵本ナビ」に寄せられた声を読んでもらえるのは、ありがたいことです。

年齢は子どもの成長傾向を読み解く目安に

――それぞれの年齢ならではの喜びがあることを伝えていく重要性について書かれていますが、「絵本ナビ」のサイト上にある「年齢で探す」「何歳のお子さんに読んだ?」という箇所は、閲覧者にどんな効果があると思いますか。

 「絵本ナビ」の立ち上げ当初からあった対象年齢の明示は、読者にとっては手に取る際に最もわかりやすい目安として需要がありますし、便利でもあります。絵本選びに困ったとき、先輩ママ、パパの読者が「うちでは何歳の子が喜んでいました」というレビューを目にするだけで選びやすくなります。

 その意味では、年齢ごとの反応や楽しみ方を載せた情報は、絵本選びの可能性を広げる契機になると思います。こうした実際の声は、「絵本ナビ」ならではの財産。データが集まれば集まるほど「この年齢で一番楽しめる」という一定の傾向と理由が出てきます。何年経っても、声が古くならない、変わらないというのも絵本の大きな特色の一つです。

 でももちろん、絵本は年齢によって決まっているわけではありません。赤ちゃん絵本を少し大きくなってから読んでもいいでしょうし、少し大きい子向けの絵本を小さな子が楽しんだっていい。その思いは、常に「絵本ナビ」の根底にもあります。そこで本書では「この絵本は何歳対象だという限定を示す」のではなく、子どもを主役にしました。年齢ごとにどんな成長の傾向があるのか、それによって子どもが絵本を読んだときの反応はどう変化するのかということに焦点を置いたのです。例えば2歳のときに読んでいた本を小学生になって改めて読むと、「これ懐かしい」と子ども自身が成長の変化を感じることもあります。

 絵からも文字からも同等に物語っているのが絵本の特徴です。読解力というのは、字を読むことだけではなく、絵を読み解くという力も含まれると思うんです。想像力の深さのようなもの。「本をたくさん読みなさい」という話もありますが、まず絵本で絵から雰囲気や状態、感情や物語の展開を読み解くということを子どものうちに存分に楽しんでおけば、成長したときに本を楽しむ土台が築かれていると思っています。

装幀は憧れの絵本作家・三浦太郎さんに依頼

――鮮やかなピンクが目を引く表紙には、絵本を読む子どもたちの絵が描かれています。装幀を担当した絵本作家の三浦太郎さんとのご縁について、またデザインをどのように依頼されましたか。

 三浦太郎さんは、私が書店員として絵本を担当していた時代からのファンで、『ジャングルジムをつくろう!』(ほるぷ出版)という作品がすごく好きだったんです。本書の出版のお話をいただいたときに、恐る恐る装丁をお願いをしてみたら、快く引き受けてくださいました。私からは「お好きなように描いてください」としかお伝えしていません。全面にピンクが敷いてあったのは想定外で驚きましたが、この色からはパワーをもらいますね。帯には子どもが、赤ちゃんからだんだん成長していく様子が描かれています。

 実はカバーを外すと、横を向いていた子どもたちが正面を向いて笑顔になっているんですよ。三浦さんから装丁に込めたいただいたコメントの中で「寝転がって読む、うつ伏せで、いやいや逆立ちで?」という一節があるのですが、こんなふうにひとりでも多くの子どもたちに自由に読んでもらいたいという気持ちに、私自身共鳴できて、本当に心から幸せを感じています。

 年齢別にインデックスを付けたのは、愛着をもって長く読まれる本にしたいという思いがあったからです。子育て中はもちろん、子育てが終わってからも昔読んだ絵本を振り返られるような装幀や使いやすさにこだわりました。兄弟、姉妹がいたら、年齢別のページを見比べるのも楽しいですね。

大人の絵本の楽しみ方

――子育て世代ではない方も含め、大人が絵本を楽しむには凝り固まった価値観や経験を削ぎ落して絵本に触れることが大事なのでしょうか。

 字も読めて経験もあって、大概のことがひとりでできる大人は、自由であることが最大の特権であり、逆に絵本の楽しみを知るうえでは経験が邪魔になることもあります。表紙だけで選んでもいいですし、物語から入ったり作家性を見たりしてみてもいいですし、自分のたくさん積み重ねてきた経験を、絵本に重ねて読むというのも自由です。それが大人の楽しみ方だと感じますね。でもそれだけではもったいない。子どもはどうやって楽しんでいるかということを一度考えてみてほしいですね。すると自分の知らなかった面白さにも気づくことができるはずです。

 おすすめは、一度全て忘れて無になって、ゆっくり声に出して読んでいくこと。私はそれを実践しているうちに、感動して泣きそうになったことがありました。最初は物語に入り込むまで時間がかかるかもしれませんが、絵本の全てを受け止めていくということを繰り返していくと、じんわり楽しめるようになります。たとえ子どもの頃に読んでいなくても子どもの頃を思い出すような絵本を読むと、自分の中の「子ども」を発見することもあるかもしれません。すると自分自身を理解していくことにもつながると思います。

 私が大人になって読んだ絵本『アルド・わたしだけのひみつのともだち』(ほるぷ出版)は、まさに自分が小学生から思春期にかけてモヤモヤしていた気持ちが描かれていて驚きました。当時の自分が読んだらどんなふうに感じるんだろうと思いましたし、絵本は子どもを俯瞰的に描くと思い込んでいた自分にとって内面をそのまま描く手法は新しい発見でした。

――現在届いている読者からの反響でうれしかったことはありますか。

 冒頭に載せている「絵本は自由だ宣言」に共感してくれる読者、書店員が多いことです。この宣言は、本書では年齢ごとのおすすめの本を紹介しているけれども、「選び方、楽しみ方はあくまで自由です」というメッセージ。矛盾していますが、世のママ、パパが追い詰められることがあったら残念ですから。ちょっとでも読みたいと思ったら読んだらいいですし、面白いと思わなければそれはそれでいい。誰かの為に読んでいたとしても、それは結局巡り巡って自分の為に読んでいるからこそ聞いている人も楽しめるということもあるのではないでしょうか。他には、子どもはいないけれど、子どもに読んでみたくなったという声もありました。本書を読んだことがきっかけで絵本に興味を持ち、何か一つでも行動に移す後押しになればうれしいですね。