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梅津庸一「ポリネーター」 考え抜かれた配置、読者を誘い込む

梅津庸一は、1982年生まれの美術家。美術、教育、共同体の在り方を実践を通して考える「パープルーム」の主宰などで知られる。作品図版左は「ヌーディストビーチ」、右は「パームツリー」

 同時代を生きる作家の活動を見る面白さは、今後どうなるかサッパリわからないところだ。本人にもわからない。大学に勤めるとか安定的なルートがないわけではない。だが、著者はどうなるかわからない不安定な場に自らをあえて投げ込む。美術というガチガチの制度を前に、それでもなお、絵を描いている私とは誰かという青臭くも真摯(しんし)な問いを手放さないためだ。初期衝動を武器に、ドン・キホーテよろしく著者は巨大な美術史に立ち向かう。

 図版の左は、我が国の洋画家に多大な影響を与えたラファエル・コランの絵画の、本来は草むらに横たわる裸体女性を、戦時下のパールハーバーに移送している。二つの歴史を重ね合わせることで奇妙なユーモラスさが滲(にじ)み出している。本書をめくる読者には作家の自画像にも重なるだろう。右では、近年取り組んでいる陶芸によるヤシの木が性的な目線を煽(あお)る。同時に、真珠湾に散った大叔父への追憶でもあることが、やはり次第にわかってくるはずだ。見開きごとの、考え抜かれた配置によって作品どうしの交流が生まれ、読者も誘い込まれる。展覧会だけが作品の場ではない。絵を見ている私とは誰か、と読者に問いかけているのだ。=朝日新聞2023年6月17日掲載