一気呵成(かせい)に物事が進む政治に「何かおかしい」と感じている人は少なくないのではないか。その違和感の正体を「ショック・ドクトリン」というキーワードで読み解いた。
この言葉は、テロや自然災害、パンデミックなどの混乱に乗じて、為政者や巨大資本が新自由主義的な政策を一気に進める手法を指す。カナダのジャーナリスト、ナオミ・クライン氏による同名の本で広まった。
多くの人が思考停止している間に通常なら通らない法律が作られ、教育、福祉、医療分野など公共の領域に大企業が入り込んで巨大な利権を手にする。裏では政界と大企業を行き来する人たちがいるのも特徴だ。
「日本はいま、まさに渦中にいる。これが私たちの求める未来か、立ち止まって考えるときです」
本書で焦点を当てたマイナンバー、コロナ禍のワクチン接種、脱炭素社会への政策なども、危機感をあおり、選択肢を狭める「ショック・ドクトリン」の一例に挙げる。
2001年の米同時多発テロが起きたとき、著者は現場近くの証券会社で働いていた。だが「本当の恐ろしさはその後だった」。恐怖が社会を覆い、メディアは同じ論調に染まり、米政府は通話記録などの情報収集を始めた。猜疑(さいぎ)を挟むこともできない空気の中、イラク戦争へと進む様子に「真実は自分で探すしかない」とジャーナリストに転じた。
現場を歩き、金の流れを追うことで全体像を描き出す丹念な取材を重ねてきた。米国の貧困の構造、規制緩和で売られる公共の資産、デジタル化の未来など、海外の事例は、数年後の日本の姿だった。「違和感を感じる感度を上げてほしい。そうすれば自分の身を守ることができる」
本書は出版から約1カ月で8万部を超えた。違和感の答えを求める人がいかに多いか。その証しに見える。(文・宮地ゆう 写真・鬼室黎)=朝日新聞2023年7月8日掲載