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『闇バイト 凶悪化する若者のリアル』廣末登さんインタビュー 一度やったら抜け出せない、背景にある構造的問題

(Photo by Getty Images)

インタビューを音声でも

 ポッドキャスト「好書好日 本好きの昼休み」でも、廣末さんのインタビューをお聴きいただけます。以下の文章は音声を要約、編集したものです。


闇バイト仕切る「半グレ」

――本書の冒頭で書かれていたフィクションの物語が衝撃的でした。コロナでバイト先が休業となってしまった大学生が収入を確保しようと、「高額バイト」のキーワードで検索し、いわゆる「闇バイト」に行き着いてしまう。そこからテレグラムという、機密性に優れており犯罪に使われやすい通信アプリをインストールするよう指示され、最初は通常の業務から、徐々に「受け子」と言われる詐欺行為に加担していく過程が非常にありそうな話で……。

 そうですね。昔は部屋から出なければ、そういった犯罪に巻き込まれることもなかったんですが、今は家の中、自分の部屋にいても、そういう犯罪に一瞬で巻き込まれてしまう。非常に怖い世の中になりましたね。

――闇バイトを取り仕切っているのは「半グレ」だそうですが、そもそも「半グレ」というのはどういう人たちなのでしょうか。いわゆる暴力団などの反社会的勢力とはどう違うのですか。

 暴力団との大きな違いは、暴力団は「〇〇組」といった看板があるので、ある程度存在がわかっているところです。ところが、「半グレ」というのはそういうものがない。いわゆる匿名化した犯罪集団です。それと暴力団組員になるためには、一定のステップを踏まないといけませんけど、半グレは「俺、今日から半グレね」と言った瞬間に半グレになれてしまうんですよ。そこも大きな違いですね。

――本書では「半グレ」が4種類に分類されていて、時代とともに構成比率も変化していると記されています。特に衝撃的だったのは、「不良がかった青少年や一般人」の半グレが増えてきたという点です。

 元々は、働きたくない一般の青少年が「ちょっとラクして金儲けしようぜ。ワンチャンゲット!」って感じだったんですね。ところが、徐々にコロナ禍で仕事を失った人、あるいは借金をしてしまって首が回らない人、そういう人たちを吸収する受け皿になってしまったんです。

――全く犯罪とは無縁だった人たちが知らないうちに闇バイトに加担させられていく端緒としては、どんなケースがあるのでしょうか。

 借金があるという弱みを反社会的勢力の人たちに握られて「借金を返せないんだったら、闇バイトしろよ」と迫られたり、あるいは住所などの個人情報を知られていて「(闇バイトに)加担しなかったら女房、子供がどうなるか、わかってるよな」などと脅されたりして、闇バイトに流れてしまうケースがあります。

――闇バイトに応募してくる人たちには、コロナ禍を経て何か変化はあったんでしょうか。

 2020年ごろは闇バイトの認知件数は減っていたんですよね。ところが、コロナ禍以降、また増えているんですよ。コロナ禍で仕事を失った人、生活困窮者、多重債務者、そういう人たちが加わってきている可能性があります。

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早期の情報リテラシー教育が必要

――こういった犯罪に巻き込まれないために、私たちはどんな心がけをしていたらいいんでしょうか。

 「闇バイト」を探すと、いまだにけっこうたくさん出てくるんです。「限りなくグレーな仕事です」「違法じゃありません」「弁護士に相談しましょう」などと様々な甘言を弄しているんですが、「高額」や「即金」、「物を運ぶだけ」など「〇〇するだけ」といったバイトというのは、まずありえないですよね。なので、まず申し込まないということが非常に大切です。

――本書で闇バイトについての周知を教育現場ですべきだと主張されていましたが、具体的にはどのような取り組みがあれば闇バイトに手を出す人を減らせるとお考えでしょうか。

 私が様々な対象者にお会いして端的に思ったことが、やはり義務教育課程で、情報リテラシー教育とキャリア教育が十分になされていない気がするんですね。法務省が2021年(令和3年)に行った10代から40・50代ぐらいまでの刑事施設に収容されている人、あるいは鑑別所に収容されている青少年を対象にした調査では、「汗水たらして働くよりも楽して金儲けがしたい」というような回答をしている人が10代で47%ぐらい、20代では半数以上に上るんですよ。おそらくYouTuberなどを想定しているのかもしれませんが、これは手に職をつけずに儲かる仕事はないってことを理解してない証拠ですよね。

 だからこそ私は、キャリア教育にしても情報リテラシー教育にしても、いまは小学校ぐらいから行う必要があると考えています。小学生からスマホを持っているわけですから。そのぐらいしっかりやっていかないと、世の中の変化にはついていけないと思います。それと、大人も諦めムードではなく、SNSなどの最新のアプリについてきちんと知らないと、この犯罪は防げません。

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たった1回の過ちで人生を棒に

――廣末さんは罪を償った人への更生支援もされています。廣末さんご自身もかつては不良少年だったそうですが、どのような思いで支援をされているのでしょうか。

 そもそもの話になりますが、私は2003年から約20年間、反社会的勢力の人たちの取材・調査を行ってきました。なぜ私が研究し続けられるのかというと、やはり彼らと共通の言語を喋ることができるからです。彼らの態度、あるいは気持ちがある程度わかるということもあります。

 もし私がいまの時代に10代だったらと考えたときに、先輩から「お前、ちょっと通帳を集めてこいよ」「受け子をやれよ」って言われたら、絶対断れなかったと思うんですよね。やっぱり先輩は怖いですから。しかも地元にいる。いっぺんは逃げられても絶対いつか捕まります。彼らの言葉で言えば「ボコボコにされる」ことを考えると、やっぱり怖いから従わざるを得ないと思うんですね。僕らの時代は特殊詐欺の闇バイトなんてなかったから、せいぜい「金持ってこいよ」「パー券(パーティー券)買えよ」ぐらいのものだったんですけど、今は先輩が怖くてやった1回の過ちで人生を棒に振ってしまうことになっていて、あまりにも極端な気がするんです。

――確かに1回の過ちで再び戻ってくることがなかなかできない社会です。特殊詐欺などの犯罪がなくならない理由として、日本社会の構造的な背景についても本書では指摘されています。

 私が2018年に少年院に面談に行ってびっくりしたことあるんですよ。当時17歳の少年に「どんな仕事がしたい?」と尋ねたら「俺、現金手渡しの仕事がいいですよ」と言うから、「現金手渡しなんて今時ねえぞ」って話したんです。そしたら、「いや、俺はOSなんで口座持てないんです」って言うんですよ。

 OSというのはオレオレ詐欺のことらしく、オレオレ詐欺で銀行口座を持てないというのは極端だなと思って、調べてみると本当に持てない。でも、10代で銀行口座が持てなかったら更生なんてできないじゃないかと、愕然としたんですよね。銀行口座がない生活を想像してもらうとわかるんですけど、携帯も持てないし、まともな仕事にも就けない。何もできないんですよ。そうなると、また裏の仕事をするしかないでしょう。

――現状では構造的に抜け出せないようになっているのですね。

 それともう一つ、成人してから捕まって新聞報道されると名前が出て、ネット上にデジタルタトゥーとして残ってしまうんですよ。そうすると、就職だけじゃなく、結婚などにも影響が出てきます。1回の過ちがいかに重い過ちだったかということなんですが、このコロナ禍を経て、生活が困窮して無知ゆえに闇バイトに手を出してしまった人はある程度救ってあげないと、どんどん犯罪人口が増えていってしまうんですよね。2015年から現在まで、年間およそ2000人以上が特殊詐欺で逮捕されています。逮捕された全員を世の中から単に排除するというのは、ちょっと無理があるし考え直すべきだと思います。

 それと、闇バイトを辞めたいなら「警察に行きなさい」とよく言っているんですが、自首しても結局一発でアウトになっちゃうわけですよね。そうなると警察には行かないですよ。だから初犯の自首案件に関しては、社会内処遇、いわゆる保護観察をつけるなどして、会社をクビにならない、学校を退学にならない、そういった社会紐帯を維持した状態で更生してもらうようにすれば、もっと自首案件も増えてくると思います。

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自分事としてとらえてほしい

――確かに。そうした負のスパイラルを断ち切るには本当に大きな改革がないと難しそうですね。

 そうですね。ちょっと厳しいかなと思います。それともう一つ気になっていることとしては、メディアの発信です。ネット媒体などで、YouTuberや株などでラクして大金を稼ぐケースをよく発信しているんですよ。そうやって、子どもたちを安易に煽るのはやめてほしいですね。

 大人たちがインスタやTikTokなどのSNSで、ブランド品などの高級品を買っただの、美味しい料理を食べただのと、キラキラした世界を発信していますよね。これも子供たちは憧れますよ。だから社会全体が大人になっていかないと、闇バイトは減らない気がします。

――最後に、本書をどんな人たちに読んでもらい、どんなことを考えてほしいですか。

 特殊詐欺の加害者にも被害者にも読んでもらいたいですし、老いも若きもあらゆる読者の方に手に取って読んでいただきたいというのが私の願いです。「闇バイト」という言葉すら知らない人もいるんですよね。その一方で、闇バイトの報道に社会が慣れてきてしまって、あまり注目してもらえていない気もします。だからこそ、本書を読んで、闇バイトが非常に大きな問題だということをわかっていただきたい。自分には関係ないと他人ごとに思うのではなく、ぜひ自分ごととして捉えていただければ、著者としてはこの上ない喜びですね。