「同調圧力」書評 過激化の恐ろしさ どうすれば
ISBN: 9784560093658
発売⽇: 2023/07/31
サイズ: 19cm/183,22p
「同調圧力」 [著]キャス・サンスティーン
同調圧力といえば日本人の得意技。空気を読めとか忖度(そんたく)とか。でも本書によれば、実は洋の東西を問わない普遍的な現象だ。個人主義者と思われがちな米国人ですら、その強大な力にのみ込まれまいと、建国当初から対策を考え抜いていたというのだから。
その力を示したのはこんな実験だ。線を1本引いたカードを被験者に見せ、それと同じ長さの線を三つの選択肢から探させる。別に難しい問題ではないので、ふつうに答えてもらえば誤答はほぼゼロ。なのに周りのみんながわざと間違った答えを選ぶと、付和雷同による誤答が激増した。
日本を含む17カ国での実験で、誤答率20~40%。程度の差こそあれ、どこにでもあるものなのだ。
同調で怖いのは、連鎖すること。ある意見に賛同する人が増えていくと、異論を言える人はどんどん減り、多数派はさらに勢いづく。過激になり、ときにカルト化する。ドイツのナチス台頭や中国の文化大革命といった悲劇も生む。
著者は言う。
いいものも悪いものも、社会運動の多くは過激化の産物だ。米国の独立革命ですら例外ではない。建国の父たちは戦いの中でその恐ろしさを知り、憲法に安全装置を組み込んだ。「表現の自由」だ。それは表現する「個人」のための自由ではない。人目を気にせず異論を言ってもらえれば、社会がバランスをとり、破滅を避けられる。我々みんなが救われるのだ、と。
ネット上では各利用者に「最適化」された聞こえのよい情報だけが届けられ、異論には触れずにすむ。著者は2001年の著書で、その弊害を指摘している。
SNSでは今、各種の話題で賛否が極端に対立しがちだ。「コロナワクチンは生物兵器」といった荒唐無稽なデマも渦巻く。デマ発信者は強制的に黙らせるべきだとの意見も多い。「インフルエンサー」たちの強い言葉をどう聞くべきか、本書はヒントをくれる。
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Cass R.Sunstein 米ハーバード大ロースクール教授。『インターネットは民主主義の敵か』(原著は2001年刊)など。