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「少女マンガはどこからきたの?」書評 初期の出版状況語る逸話の宝庫

評者: 椹木野衣 / 朝⽇新聞掲載:2023年09月02日
少女マンガはどこからきたの? 「少女マンガを語る会」全記録 著者:水野 英子 出版社:青土社 ジャンル:マンガ評論・読み物

ISBN: 9784791775538
発売⽇: 2023/06/02
サイズ: 21cm/335,14p 図版12p

「少女マンガはどこからきたの?」 [著]水野英子、上田トシコ、むれあきこ、わたなべまさこ、巴里夫、高橋真琴、今村洋子、ちばてつや、牧美也子、望月あきら、花村えい子、北島洋子[編]ヤマダトモコ、増田のぞみ、小西優里、想田四

 本書は「語る会」発起人でマンガ作家の水野英子が呼びかけ、1999年から2000年にかけて開かれた計4回の座談会を収める。このような催しが持たれた背景には、初期少女マンガをめぐる記録がほとんど残されていないことへの強い危機感があった。事実、参加者のなかにはその後、鬼籍に入る者が相次いだ。座談会から20年以上が経過し、他方では当時のマンガの復刻が進み、研究者の環境も前進している。そのような成果の一端は実はこの「会」が投げかけた余波と言える部分もある。
 この点で本書にはかつて開かれた座談会がようやく世に出たという以上の意義がある。マンガ家にとってデビューとはいつの時点を意味するのか、赤本や貸本といった当時のマンガを読者に伝えた媒体の流通は実際どのようなものであったか。こうした足元を見つめる問題提起は、初期少女マンガに様々な角度から関わった当事者たちが、論文やシンポジウムとは違うかたちで率直に語り合う中からしか見えてこない。
 むろん最大の問いは「少女マンガはどこからきたの?」だ。ひとつの結論に集約させるのは難しい。だが、大正時代にまで遡(さかのぼ)る「抒情(じょじょう)画」をはじめとする源泉を持ちながら、敗戦後に日本が朝鮮戦争で特需を得たのをきっかけに高度成長が軌道に乗り、各家庭の収入が上昇すると、それまでは一家に一冊で済んでいた子ども向けの本を、版元が性別や年齢によって分けるようになり、購買意欲を高めようとしたという説などは、従来の美術史とは異なる見方で示唆に富む。
 時の経過は語られた内容についての検証も可能にした。特筆すべきは、本書の編集過程で発言の随所に詳細な註(ちゅう)が付され、当時は語られこそすれども簡単には目にすることができなかった図版が豊富に収録されていることである。同時に初期少女マンガをめぐる驚きの逸話の宝箱でもあり、読み物としても楽しい。
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著者の「語る会」のメンバーは、少女マンガ家の先駆者12人。計4人の編集者、研究者が編者を務めた。