ISBN: 9784309254616
発売⽇: 2023/08/23
サイズ: 19cm/298,18p
「気候崩壊後の人類大移動」 [著]ガイア・ヴィンス
日本で「ノマドワーク」や「地方移住」と聞くと、ポジティブな印象を受ける。しかし、世界の緊急課題はむしろ、温暖化のため故郷に住めなくなり、望まずにノマド(遊牧民)になった気候移民が出現していることである。今後30年で、環境難民が10億人に及ぶという驚くべき予測すらある。本書は、この前代未聞の危機の内実をつまびらかにした意欲作である。
気候変動は深刻な火事、猛暑、干ばつ、洪水を引き起こす。これらの災害は多くの土地を乾燥地に変え、農業に大打撃を与える。熱帯では居住可能性が脅かされ、放棄される土地も増えるだろう。逆に寒冷な高緯度地域(アラスカ、シベリア、グリーンランドなど)は、農業や都市建設に適した新天地となり、ノマドの格好の移住先となる。生き残りを賭けた「人類の未曽有の大移動」は、世界の変身を強く促すのだ。
移民が増えると犯罪や暴力も増えるという懸念には、実証的な根拠はない。最近では数百万人に及ぶ桁違いのウクライナ難民が発生したが、移民アレルギーの強かった東欧諸国こそが彼らを受け入れた。加えて、移民の受け入れは経済的利点が大きい。移民は多くの仕事を創出し、消費を活気づける。労働力不足に直面するグローバルノースの国々で、移民の争奪戦が加速するのは間違いない。気候移民を締め出すのは「愚行」であり、むしろ住民との摩擦を減らす計画的な共生プログラムこそが必要である。
先日のハワイ大火の報道もそうだが、気候変動はスペクタクル的に消費されがちである。また、移民の悪い面ばかりが強調される。本書はその双方を批判し、過酷な「ノマドの世紀」を人類全体で生き延びるための戦術を、気候テックを含めて具体的に記している。気候変動と移民問題という二つの難問は、もはや切り離せない。特に政財界人やメディア関係者は、党派を問わず読むべきだろう。
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Gaia Vince サイエンスライター。「ネイチャー」誌の元編集者。著書に『人類が変えた地球』など。