北野天満宮(京都市上京区)は、江戸時代に天皇や上皇らから奉納された600首の和歌が、古今和歌集の解釈を受け継ぐ「古今伝授(こきんでんじゅ)」の後に納められたものだったことを明らかにした。同天満宮の祭神である菅原道真が、和歌の神様として宮中で重視されていたことがわかるという。
同天満宮には、本殿内陣深くに納められ、昭和初期に宝物殿に移された多数の和歌短冊があるが、未調査だった。2021年から、京都大学の藤井譲治名誉教授(日本近世史)と長谷川千尋教授(日本中世文学)が中心となり、約2年かけて調べた。
古今伝授は、10世紀初めの平安時代に編纂(へんさん)された古今和歌集の解釈を、師匠から弟子へ秘伝として伝承すること。秘伝を受け継いだ天皇や上皇、公家らは、それぞれが和歌を詠んで短冊に記し、和歌の守護神に奉納した。
北野天満宮への奉納は後西(ごさい)上皇による寛文4(1664)年が最初で、以後、霊元、桜町、桃園、後桜町、光格、仁孝の各天皇が計7回実施。初回と7回目が50首、それ以外は100首で、7箱に計600首が収められていた。
これまで住吉大社(大阪市住吉区)、玉津島神社(和歌山市)への和歌奉納が知られていたが、いずれも各回50首で、北野天満宮が数で上回る。
長谷川教授は「江戸時代の和歌三神といえば、住吉、玉津島、柿本人麻呂と考えられてきた。北野天満宮への奉納は、研究者の間でも知られていなかった」と指摘。上皇や天皇の直筆もあり、「保存状態もよく、近世和歌の研究においても、非常に意味のある史料だ」と話す。
同天満宮の橘重十九(しげとく)宮司は「学者で政治家でもあった菅原道真公は、何よりも詩歌に抜き出た方だった。和歌の奉納は、朝廷の崇敬の篤(あつ)さを示している」と話した。
今回の研究成果は、「北野天満宮聖廟法楽(せいびょうほうらく)和歌集」として刊行。和歌短冊の写真をすべて掲載し、くずし字を活字にした翻刻と、解説も載せた。
7500円。問い合わせは同天満宮(075・461・0005)。(西田健作)=朝日新聞2023年10月4日掲載