音声でもインタビューを
好書好日ポッドキャスト「本好きの昼休み」でも小泉今日子さんのインタビューをお聴き頂けます。以下の記事はポッドキャストを要約・編集したものです。
小泉さんが選ぶ「WANDERING」な本
- おやゆびひめ(アンデルセン/江國香織訳、BL出版)
- ぼくを探しに(シェル・シルヴァスタイン/倉橋由美子訳、講談社)
- ビッグ・オーとの出会い(同。現在は村上春樹訳『はぐれくん、おおきなマルにであう』と改題して、あすなろ書房から刊行)
- Deuce and a Quarter (Vinca Petersen, IDEA)
- 猫の航海日誌(寺山修司、新書館)
親指姫の冒険にあこがれて
――今回の本のテーマにちなみ「WANDERINGな本」ということで、小泉さんに「旅立ち」「巣立ち」「放浪」といったイメージの本を何冊か選んでいただきました。
意外と「旅立ち」とか「冒険」とかの本って読んでこなかったんだなと家の本棚を見ながら思ったんですけど、その中でもこれなら“WANDERING”っぽいなと思うものを選んでみました。
子どもの頃に好きだったお話が「人魚姫」と「親指姫」だったんですけど、「親指姫」って実は“WANDERING”じゃないかなと思ったんです。今回持ってきたのは、江國香織さんが翻訳した絵本(『おやゆびひめ』BL出版)。ハスの葉っぱに乗って小川を進み、いろんな動物たちに出会って、最後には王子様みたいな人と出会えるという話で、なんか憧れたんですよね。私はひとりで遊ぶのも好きで、昆虫やお花たちと一緒に庭で遊んでいたので、その世界に入ってみたいなという思いがありました。もしも特殊能力を一つだけ授かれるよって言われたら、動物や植物、昆虫と話せる能力が欲しいって、子どもの時から思っているんですよ。
シンプルだけど深い児童書
――まさに「親指姫」の世界ですね。それが小泉さんの幼少期のルーツにもつながると。2冊目は?
シェル・シルヴァスタインの『ぼくを探しに』(講談社)と続編の『ビッグ・オーとの出会い』(同)。「WANDERINGな本」というお題で本を持ってきてくださいと言われた時に、絶対に持って行こうとまず思った本です。
『ぼくを探しに』はシンプルな線画と言葉で、パックマンみたいな形をした子が、欠けている欠片の部分を探しに出かけて行くお話。雨や雪、お花などいろんなものに出会っていって、欠片を見つけたけど落としてしまったり、穴に落ちたり。人生自体がWANDERINGであるということがすごく象徴的に書かれています。
続編の『ビッグ・オーとの出会い』は、自分にぴったりハマる誰かを待っている欠片の子が主人公。「ビッグ・オー」と名乗るマルの子と出会い、待つのではなく自分から転がっていくようになり……というお話です。これは20代前半くらいに読んだ本で、忙しい中で小説とかを読むほど心に余裕がないとき、よく児童書を探していたんですよね。そういうときに出会った本で、ずっと好きな作品です。
――文章もすごく短くて絵もシンプルですけど、年を重ねて読むと趣が変わってきそうですね。
そう。でも、深いんです。児童書には、読む年齢によって感じるものがちゃんと違う本がわりと多いですよね。この2冊は、大人になったときこそ読んだほうがいいのではないかと思います。あと、プレゼントにも向いているかな。子どもはもちろん、ティーンエイジャーの方や就職したばかりの人など、年配の人から若い人にプレゼントするのにおすすめです。
当てもなく旅する自由な写真集
――続いての本は、写真集ですか?
そうです。今朝、本棚を眺めていて、ああ、そういえばこんな写真集を買ったなと目に入ってきて。
これは、「ホントのコイズミさん」の収録で伺った代田橋にある本屋さん、「flotsam books(フロットサムブックス)」で買った本です。車でどこかに出掛けているグループを撮った写真集なんですけど、写真を見る限り、当てもなくどこかに出掛けている感じなんですよね。寄り道をしたり、キャンプ的なことをしている日があったり。いま、もし旅に出ることができるんだったら、こういう感じで、決められたところじゃなくて、自由に、闇雲に出掛けてみたいんですよね。
――車に乗ってみんなで延々と旅をする、アメリカっぽい感じですね。
そう。で、また車がキャンピングカーとかじゃなくて、普通の白いセダンっていうのがいいな、と。しかも、写真に写っている人たちは家族でもなさそうだし、カップルでもなくて、なんか自由な感じがすごくするんですよね。それこそ当てもなくさまよう旅って感じがしていいなと思って持ってきました。
――今回の『ホントのコイズミさん WANDERING』でも、小泉さんは移動手段の中で車がいちばんお好きだと書かれているので、まさにピッタリの本ですね。
そう。車って、いちばん自由度が高いなと。高速道路を走っていても降りたくなったら降りられるし。まあ、渋滞にはまってしまうという不便さはあるんですけど、それも意外と好きで、渋滞のときに音楽を聴いている時間とかも全然嫌いじゃないんですよね。
詩集のような「猫の航海日誌」
――続いて、この猫が表紙の一冊は?
これは、タイトルから“WANDERING”を感じて持ってきました。寺山修司さんの『猫の航海日誌』(新書館)。猫ちゃんがパイプをくわえて、ベレー帽をかぶって眼帯をしている絵が表紙で、詩集に近いんですよね。青春だとか恋愛、それから老いみたいなものも感じる一冊です。
――これはどんなタイミングで手に入れたんですか?
ここ数年の間に手にしたものなんですけど、誰かにもらったのか、自分が古本屋で買ったのかは覚えていないんです。
――気がついたら本棚にあった、と。
そう(笑)。
――詩だけでなくて、散文みたいな長い文章もあって、いろんな表現手段を駆使した寺山修司さんらしい本ですね。
不思議な本です。もらったのかもしれないと思っていたけど、今考えるとやっぱり自分で古本屋で買ったような気もする。猫好きとして、表紙に惹かれてつい買っちゃった本かも。
あと、手元にはなかったんですけど、私が書評を書いた本の中にも「WANDERINGな本」ってあったなと思ったので、紹介させてください。
――それで『小泉今日子書評集』(中央公論新社)を持ってきていただいたんですね。
いしいしんじさんの川が舞台の物語『ポーの話』(新潮文庫)とか、片桐はいりさんが旅について書いたエッセイ『わたしのマトカ』(幻冬舎文庫)とかもめちゃくちゃ面白くて。あと、松浦寿輝さんの『川の光』(中公文庫)。これは、川辺の棲家を追われたネズミたちが安住の地を求めて旅する冒険話なんですけど、そういうのも“WANDERING”っぽいですよね。
「旅立ち」に表れる個性
――第2弾となる書籍のテーマは「WANDERING」です。なぜこのテーマに?
いくつかみんなでキーワードを考えていて、これがいちばんピンときたんですよね。コロナ禍になって本当にみんな旅することを忘れていたけど、「旅」とか「Journey」って言葉だと、行動としての意味合いが強い気がしてしまったんですよね。でも、「WANDERING」なら、もうちょっと精神性も伴う言葉のように感じたんです。
今回の本には、吉本ばななさん、本屋「BOOKSHOP TRAVELLER」の和氣正幸さん、写真家の佐藤健寿さん、雑誌「TRANSIT」編集部の林紗代香さんと菅原信子さんとお話をした回を収録しています。前回同様に本だけの特別企画もあるんですけど、今回の企画は特に気に入っていますね。
――吉本ばななさんの『キッチン』の各国翻訳版の表紙を並べたのは、見ていて面白かったです。
日本から旅立った作品が、それぞれの国でいろんな解釈がなされていて面白いですよね。他にも、下北沢から祖師ヶ谷大蔵に引っ越された「BOOKSHOP TRAVELLER」さんの新しいお店にも取材に行かせてもらったり、写真家の佐藤健寿さんに私の故郷である厚木を写真に撮ってもらって、そこに私の文章を添えたりしています。「TRANSIT」編集部さんとは、「○泊で××に行く」と想定して各々がパッキングをしてみるという企画をやりました。これもそれぞれの個性が出て面白かったですね。
遠くへ行かなくても「旅」を
――小泉さんはお仕事ではいろんなところに行っていると思うんですけど、プライベートでの旅は?
プライベートな旅は、もう何年もってレベルでしていないですね。
――行くとしたらどんなところに行きたいですか? 今回の本の一問一答コーナーでは、死ぬまでに一度は行ってみたい所にスロベニアを挙げられていましたね。
それは大好きな韓国ドラマのロケ地なんです。すっごい綺麗なところで。特にピランという港町にはいつか行ってみたいなと思います。でも、もし次に自由な時間ができて旅するなら、やっぱり韓国と台湾に行きたいですね。好きなものが、そこにあるから(笑)。
あとは、さっき紹介した写真集みたいに、国内でも車でぷらーっと、とりあえず東名高速道路に乗ってとか、中央高速道路に乗ってとかはやってみたいですね。
――あてもなくって、だんだんできなくなっている気がします。
でも、東京にずっといて仕事をしていても、本当に行きと帰りで道を変えるとか、それだけでもさすらい感が出てくるんですよね。そういうことだけでも意識って変わったりする。新しい道を通ってみたり寄り道したり、遠くに行かなくてもできる気はします。
いま、みんなどこかに行くときって、携帯電話の地図アプリや車のナビで目的地を目指すようになっているけれど、なんか勘が鈍っていってしまいそうでつまらないなと思うんですよね。もちろん仕事などで時間に限りがあるときには、そういうものを使うんですけど、できるだけ携帯電話を持っていることを忘れる時間もあるように心がけたい。便利なものは便利でいいけど、たまにはゲームのように勘を取り戻す時間を意識的に作ったら楽しいだろうなって思います。
【好書好日の記事から】
>小泉今日子さん「ホントのコイズミさん YOUTH」インタビュー "本愛"も偏愛も語り尽くす、人気ポッドキャストが書籍化