――読む「ホントのコイズミさん」は、小泉さんが以前から密かに温めていた計画だったそうですね。
元々、本にまつわるお仕事をしている人にインタビューしたいということでこの番組をスタートしたんです。そう思うようになったきっかけは、独立系の書店がすごく増えたことでした。こだわりのある本屋さんをやるということは、何か世の中に対して感じていることや「こういうことが好き」と訴えたいことがある人たちなのでは?と思ったんです。
そういうお店の方々にお会いできたらとても貴重なお話が聞けそうだなと思ったし、それを書籍にすれば記録として残っていくなと思っていたところ、303BOOKSさんが仲間になって特設サイトを作ってくだいました。そこでリスナーの方から寄せられたメッセージやリクエストにも応えていけるようになったので、本にまとめられることが増えていき、最初から企てていたことがだんだん見えてきて「しめしめ」という感じでした(笑)。
――今回は青春や若者を意味する「YOUTH」というテーマで、松浦弥太郎さん、選書専門の書店「双子のライオン堂」店主の竹田信弥さんとライターの田中佳祐さん、奥沢に書店「SNOW SHOVELING」を構える中村秀一さん、作家の江國香織さんの回が収録されています。1作目のテーマを「YOUTH」にされたのはなぜでしょう?
この番組が始まる時に、第1回のゲストをどなたにしようかと考えたら、全員一致で松浦弥太郎さんの名前があがったんです。松浦さんが本のセレクトを手がけている「COWBOOKS」は東京の独立系本屋さんの走り的な存在だったと思うし、このお店からヒントを得て開店したお店も多いのではと思いました。
私と松浦さんは同世代なんです。同じ時代の同じ景色を見てきた人とは、多くの言葉を語らずとも「あ~分かる分かる!」という感覚があったんですよね。そういうところが「YOUTH」だなと思いました。
双子のライオン堂さんとは今回の企画で一緒に読書会をやったんですけど、すごく楽しかったですね。田中さんが学校の先生をされていたこともあって説明がすごく上手だったので、“大学生のお兄さんに勉強を教わっている中学生”みたいな気分がして、それも「YOUTH」だなって。
――小泉さんにとって、幅広い意味での「YOUTH」を感じた方々なんですね。
そうですね。「SNOW SHOVELING」の中村さんは完全な「ハルキスト」なんですが、村上春樹さんの作品自体にもYOUTH感が漂っているし、江國さんは私の憧れのお姉さんなのですが、江國さんの作品を読んだり、お話をしたりしていると少女のような気持ちになるんです。
――これまで番組で様々な方と本について語ってこられて、どんな発見がありましたか?
リスナーの方々から頂く声の中に「そんな風に思っているのは私だけかと思っていた」とか、「私も似たような経験をして、こんなことで悩んでいました」といったメッセージが多いんです。そういうマイノリティみたいなことって、大きな声で語られることが少ないと思うので、この番組を通してそういう方たちに届けられる声があるのかもしれないなということは発見でした。
マイノリティな「好き」たくさん聞きたかった
――書籍化の特別企画の一つとして、「松浦弥太郎さんとコイズミさんの 10 代のころの宝もの」というページがあるのですが、松浦さんはサングラスやスーパーカーカード、小泉さんは大島弓子さんの作品やシャネルのバッグといった、お二人の10 代が垣間見られるお宝が掲載されています。中でも、私が特にお聞きしたかったのが、根津甚八さんの写真集とアルバム!
そこに興味を持ってくださったなんて、載せて良かったです。私はNHKの「黄金の日日」(1978年)という大河ドラマと、「冬の運動会」(1977年、TBS)っていうドラマを見てから、未だに根津さんが不動のナンバーワンです。写真集も本当にすてきなんですよ。白いTシャツにデニムだけで写っているカットとか、「根津さぁ~ん。」という文庫版の写真集の表紙は黒猫を抱いたお顔がとっても優しいんです。
この前、私が大ファンのBTSのSUGAさんが黒猫の写真をSNSにアップしていて、「私の好きな男の人たちが黒猫を抱いている!! 『黒猫同盟』(小泉さんが上田ケンジさんと一緒に活動している音楽ユニット)ともリンクする!」って勝手に盛り上がっちゃいました(笑)。
――私も根津さんの大ファンなのですが、周りに語れる人がいなかったので、つい興奮してしまいました(笑)。
お若いから珍しいかもね。今日から「甚八同盟」の仲間だ(笑)! でも、そういう偏ったというか、マイノリティな愛ってなかなか大きい声では話せないことだったりするから、そういうことをこの番組でたくさん聞きたかったんです。「どうしてこんな本屋さんを始めたの?」とか「なぜ猫だけの作品を集めた本屋さんをやっているの?」ということを聞いて、そのアンサーが、また誰かにとって「あぁ、分かるな」と思ってもらえたらうれしいです。
――小泉さんは青春時代にどんな本を好んで読んでいらっしゃいましたか?
私は16歳から仕事を始めて、突然大人の中に入ってしまったから、周りの人が当たり前に口にする人物や出来事を聞いても、キョトンとしてたんですよね。自分が知らないところで、自分の何かが決定していってしまうんじゃないかと不安になったんです。そこでまず手始めに、本屋さんに行って有名な作家の人の本を1冊ずつ買ってみたんです。「太宰治って読んだことなかったな」とか、「夏目漱石って聞いたことあるな」という感じでチョイスしていったので、その頃に読んでいたのは割と純文学が多かったですかね。
あとは、現場でいつも本を読んでいると、大人の人たちが本をプレゼントしてくださったり、おススメの本を教えてくださったりして、徐々にジャンルが広がっていきました。
――まずは有名作家の作品から読み始めたとのことですが、その当時何か響くものはありましたか?
太宰治の「人間失格」を読んだ時に、「あ、こういう風に思っているのは私だけじゃないんだ」って思えたんです。太宰さんの作品はすごく暗いと言われていて、それを鵜のみにしていたんですけど、「人間失格」を読んで「めちゃくちゃユーモアがある!」とすごくギャップを感じてハマりましたね。
夢は「小泉ブックフェス」
――今まで訪れたのは都内にある書店が多いようですが、全国各地にも個性的な本屋さんがたくさんありますよね。どこか気になっている場所やお店はありますか?
私も「もっと地方とか行けたらいいね」とスタートの頃から言っているんです。京都や神戸にも面白い本屋さんがあるとお聞きしますし、リスナーさんからのメッセージにも、畑の真ん中に本屋さんがあるとか、いろいろな情報をいただけるので、いつか行ってみたいなと思っています。
――きっと、その土地の特色が出ていたりするんでしょうね。
絶対そうだと思います。この間行った世田谷区尾山台の商店街の中にある書店「WARP HOLE BOOKS」さんは、デザイナーとして大学で講師をしている黒川成樹さんが、街の人の声を聞いて開店させたというお話を伺いました。独立型の書店さんはきっと街にすごく影響されているし、街も影響されると思うので、行く先々できっと全然違う特色があるんじゃないかなと思います。
――本書には、小泉さんが「双子のライオン堂」さんとの読書会に参加された様子も収録されています。初めての読書会はいかがでした?
読書会はずっと参加してみたいなと思っていたのですが、昨今のコロナ禍で読書会もオンラインでしかできなくなっているというお話をいろいろな書店さんから聞いていたので、今回実現できてうれしかったです。読書会は、1冊の本を何人かで読み、それぞれが感じたことを話し合うので、また自分の世界が広げられるんですよね。私たち役者にとっては台本がそういう役割になったりするんですけど、人によって感じることや捉え方が違うのがおもしろかったです。
―― もし小泉さん主催で読書会を開くとしたら、どんな本を課題作品に選んでみたいですか?
いつか小学生や中学生たちと一緒に読書会をやってみたいですね。課題図書も、絵本やミヒャエル・エンデの児童書とかもいいかな。自分が気づかないことを、きっと彼らは気がつくんだろうな。
――これからやってみたい本の企画は何かありますか?
いろいろな書店さんと出会ってお話を伺っていくと、意外と本屋さんって、横でつながって連携しているんだなということを知りました。例えば、神保町にある韓国文学の専門店・チェッコリさんと双子のライオン堂さんが一緒にイベントをやっていたり、フェミニズム関連の本ばかり置いているエトセトラブックスさんと、別の専門書を扱う本屋さんが仲良く情報共有していたりとか。
いつかそういう書店さんたちと一緒にブックフェスをやってみたいんです。例えば、廃校になった学校を利用して、この教室では朗読をしていたり、ここでは音楽を奏でていたりとか、そういうことができたら楽しいだろうなって。それが今の夢ですね。
――それは想像しただけでも楽しそうですね!
昨年、(韓国の翻訳書を扱う出版社が集まる)「K-BOOKフェスティバル」に参加して、朗読をさせてもらったんですけど、そういったイベントを実現するのは結構大変なことだと思うんです。だから、もっともっと「本」とつながる仲間を増やして、いつか実現できたらいいなと思っています。
インタビューを音声でも
編集部から毎週お届けしているポッドキャスト「好書好日 本好きの昼休み」でも、小泉今日子さんのインタビューをお聴きいただけます。