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高橋杉雄「日本で軍事を語るということ 軍事分析入門」 目を背けぬための材料を提示

 ロシアによるウクライナ侵攻は、戦争は過去のものであると先入観を持つ人々に大きな衝撃を与えた。国際政治の舞台での外交交渉や、宇宙やサイバー空間での監視によるインテリジェンス、国や地域同士の経済的相互依存の拡大により、戦争は抑止できる――。多くの人々が依(よ)って立っていた前提は、今や大きく覆された。外交と平和の時代から戦争の時代に再び突入したと言っても過言ではない。

 イスラエルとイスラム組織「ハマス」との間でも紛争が生じ、東アジアでも軍事衝突の可能性が指摘される時代になってなお、日本では「軍事」という言葉を忌避する人が少なくない。軍事力による抑止とは何か、国民が自衛隊の運用を精査する責任がなぜあるのか。目を背けることなく、国民一人ひとりが軍事について当事者意識を持つことを著者は促している。メディアで頻回にウクライナ情勢を解説していた著者の語り口そのままに、本書では軍事全般の歴史や代表的な戦略論、陸海空と宇宙・サイバー空間での分析結果、軍事分析手法などが平易に説明されている。

 「軍事を学ぶ入門書として好適」と評されるだけあって、本書の内容は実に正統派。他方、先端技術などへの視点が欠けるのは残念だ。現代の戦争では、電磁波領域の重要性が増し、人工知能や無人機、半導体などの民生技術も軍事転用し活用される。軍事力は科学技術イノベーション能力に裏打ちされ、戦争を抑止する観点からも、その能力を高める不断の努力が必要となる。安全保障の基本要素は外交・インテリジェンス・軍事・経済の英語の頭文字をつなげてDIMEと言われるが、技術を加えてDIMETと呼んでも良いくらいだ。

 どの研究分野であれ、未来を拓(ひら)くのは異端者だ。軍事研究はどうか。「あとがき」から、団塊ジュニア世代の著者の苦悩や焦りを垣間見た気もする。読了後、日本における軍事研究のあり方を改めて考えさせられた。=朝日新聞2023年11月11日掲載

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 中央公論新社・1925円=2刷1万6千部、7月刊。著者は防衛研究所研究室長。「60歳以上の男性読者が主。ロシアのウクライナ侵攻を機に日本の針路を考える人が増えた」と担当者。