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「射精責任」/「避妊男子」書評 望まぬ妊娠に異議と主体的選択

評者: 小澤英実 / 朝⽇新聞掲載:2023年11月18日
射精責任 著者:村井 理子 出版社:太田出版 ジャンル:生き方・ライフスタイル

ISBN: 9784778318789
発売⽇: 2023/07/21
サイズ: 19cm/213p

避妊男子 著者:ギヨーム・ドーダン 出版社:花伝社 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784763420800
発売⽇: 2023/09/07
サイズ: 21cm/168p

「射精責任」 [著]ガブリエル・ブレア/「避妊男子」 [作]ギヨーム・ドーダン、ステファン・ジョルダン [絵]キャロライン・リー 

 体の不調や社会問題は、その場しのぎの対症療法ではよくならないことを私達(わたしたち)は知っている。だが半ば神秘化され、私秘化した生殖活動においては結果がすべてで、原因が問われることはあまりに少ない。『射精責任』は、人工妊娠中絶の議論の際、女性の生殖権が焦点化されることで見過ごされてきた「望まない妊娠の責任は射精する男性にある」という大前提を、あらゆるファクトを総動員して説得的に論じ、議論を巻き起こした話題の書だ。
 コペルニクス的転回をもたらすド正論だが(男に全責任を押しつけるなという反論は内容を読み違えている)、解説がいみじくも指摘するように、そこには争点と難点がある。だが、望まぬ妊娠の「起源」を系譜学的に問い、議論の糸口に読者を誘い、中絶や出産や育児に関わる暗黒面をつねに背負わされる女性の陰に、不可視化された男性の存在があることを認知させる本書の意義は大きい。
 男性側からの意見は? 女性を無力な被害者にしすぎでは? と気になるむきには、パートナーだけが避妊の負担に苦しむことに疑問を感じた2人の男性による主体的な実践をユーモラスに描いたフランス発のグラフィックノベル『避妊男子』を併せて勧めたい。
 男性用ピルの治験が世界保健機関(WHO)主導で大々的に行われながらも頓挫した経緯、パイプカット、ヒートパンツやホルモン治療それぞれのメリットやデメリット。当事者男性の本音や周囲の反応。彼らの試行錯誤の旅から、男性避妊を取り巻く社会の現状がみえてくる。本書が描く避妊とは第一にパートナーの身体を思いやる愛情表現であり、カップル間の平等の実現だ。生殖能力は男性にとっても自己決定権のひとつであり、その自己管理は権力に反する力を持つこと――そんな主体的選択としての男性避妊は、家父長制社会にかけられた「男らしさの呪い」を解くためのレジスタンスなのだ。
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Gabrielle Blair 起業家・ブロガー▽Guillaume Daudin、Stéphane Jourdain=ともに仏記者、Caroline Lee。