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塩野七生さん、文化勲章の喜び語る 「自分の世界から飛び出す好奇心・勇気がある。それが私の読者」

塩野七生さん=新潮社提供

 「ローマ人の物語」など半世紀以上にわたり地中海世界を書き続けた作家の塩野七生さん(86)に今月、文化勲章が贈られた。皇居での親授式にあわせてローマから帰国し、出版社で取材に応じた塩野さんは「私はどの組織にも団体にも属していないんです。だから頂けるとは思っていなかった。もしかしたら選考委員のなかに一人ぐらい、私の本を読んでくれた人がいたためかな、と思っています」と喜びを語った。

 ローマ帝国興亡の歴史を描く代表作「ローマ人の物語」は韓国語や中国語、英語にも翻訳され、累計発行部数が1800万部に達するベストセラーとなった。幼少期から「本を読んでるか、ピアノを弾いてるか、それとも空想してるかだった」と塩野さん。空想のなかでは「自分が透明人間になって、行きたいところに行く。そういうところに私は、私の書いたものを通じて読者を連れて行きたいと思っていた」と話す。

 「ただ、人間というのは自分が住み慣れた世界で生きるのがいちばん楽なんです」とも。「だから、私の本を読んでいる時間だけにしろ、自分の世界から飛び出していく。そういう人には、まず好奇心がある。それから、飛び出すための勇気もある。性別も年齢も、社会的な地位も関係ない。これが、私の読者です」と誇らしげに語った。

 最後の歴史長編と銘打った「ギリシア人の物語」の文庫版4冊が今秋、出そろったばかり。最終巻では紀元前4世紀の東方遠征で知られる若き英雄アレクサンドロス大王を取り上げ、単行本は2017年に完結していた。「日本では年を取った作家が年を取った人間を書くと評判がいいの。ついに枯淡の域に達した、とかね。そういうのは腹が立つから、いちばん若い男を書いた」と笑顔を見せた。

 現在も、日本の歴史を題材にコラムを執筆しているが、長編は本当にもう書かないのだろうか。そう水を向けると、「私はいま短期間に緊張することはできますが、それを1年間続けるには、これはもう体力なんですよ」ときっぱり。さらに、この一言がふるっていた。「だいたいあなた、いつまでも生涯現役なんて、エレガントではないじゃないですか」(山崎聡)=朝日新聞2023年11月29日掲載