ソウルメイトのような本
――今回、翻訳を手掛けようと思われたきっかけや理由を教えてください。
マネージャーさんから「『星の王子さま』の翻訳の話があるんだけど、 やってみる?」と言われたことがきっかけです。当然今まで翻訳をやったことなかったですし、私にできるのかなという思いもあったのですが、私にとってすごく思い入れがあって大切な本だったので、「できるか分からないけれど、挑戦してみたい」と思ったんです。
――『星の王子さま』を最初に読まれたのはいつですか?なぜ中条さんにとって「大切な本」なのでしょうか?
小学生の頃、父がイギリス人ということもあって、育った環境や文化の違いから、「みんなと私は違うんだ」というコンプレックスを抱いていました。
もともと図書館に行くのが好きで、いろいろな本を読んでいたんですが、その悩んでいる頃に『星の王子さま』に出会ったんです。そのときは日本語訳版を読んだのですが、素直な感想としては「自分が思っている気持ちや言葉がたくさんある」。こんなに共感できる、ソウルメイトのような本に出会ったのは初めてだったので、なかなか衝撃的でした。
周りにいる子や一緒にいる子が思っていることと、私自身が大切に思っていることにギャップがあるかもしれないけれど、もっと世界が広がったら、共感できるものに出会えるのだろうと思えて。すごく支えになったんですよね。
それからしばらくは目の前のことにいっぱいいっぱいで、『星の王子さま』を読み返すこともなかったのですが、20歳を過ぎて、役者として「何者かにならなくてはいけない」と焦ったり、「自分とはなんだろう?」と考えたりしていた時期があって。そのときに、知り合いからもらった本が『星の王子さま』だったんです。あなたはあなたでいい、ありのままでいい。そう教えてもらった気がして、今の自分を認めてあげようと思うきっかけになりました。
――小学生の頃に読んでいた本を大人になってから再び手にとって読んでみると、受け取り方や見え方が変わったということですよね。
そうですね。小学生のときは「仲間」のような感覚でしたが、大人になってみると背中を後押ししてくれる「お守り」みたいな印象でした。
翻訳は「演技に近い感覚」
――今回翻訳をするにあたっては、どんなことを心がけられたのですか?
まずは作者であるサン=テグジュペリさんがどういう人生を歩んでこられたのかを想像することから始めました。もちろんご本人にお会いしたことはないですし、お話しすることもできないのですが、彼が残したいろいろな文章を読んだり、彼についての書籍を読んだりして、サン=テグジュペリさんのことをインプットしました。
演技をするときは、その人そのものになりきるわけですが、それに近い感覚でしたね。サン=テグジュペリさんの気持ちになって、同じ冒険をしてみて、そこから湧き上がる自分の言葉を探していく。そんな作業でした。
――1943年のフランス語の原書と同時に発売されたキャサリン・ウッズの英訳版をもとに日本語訳されました。英訳版を読んでみて何か気づきはありましたか?
初めて見る単語も結構多かったんですよね。その単語の意味を何通りか比べつつ、英語らしい表現をどう日本語らしくするか。いろいろな人のアドバイスをもらいながら、丁寧に考えていきました。
私がそうだったように、子どもでも大人でもいつでも読める本であって欲しいと思うので、誰でもスッと入り込む言葉であることを意識しながら訳させてもらいました。
――翻訳は中条さんにとって新しいジャンルのお仕事でしたね。今後はどんなことに挑戦したいですか?
そうですね。今回、翻訳にチャレンジしたことは自分の中でも大きなことで。この経験を経て、今まで「自分にできるかな?」と怖がって挑戦してこなかったことにも、これからはまずは飛び込んでみようと思えるようになりました。いろいろな出会いを大切にしたいですし、いつでも新しいことにチャレンジできるような自分でありたいと思います。
神保町で古本屋に通ったことも
――中条さんは読書家だと聞きました。普段はどういう場面でどんな本を読むのですか?
私は仕事柄、移動時間が長いんですね。新幹線などに乗っているときに、集中して読むことが多いです。エッセイやハウツー本も読みますが、ジャンルとしてはミステリー小説が好きですね。私も出演している映画『ある閉ざされた雪の山荘で』が2024年1月に公開されますが、その原作者である東野圭吾さんの作品が大好きです。
――よく神保町の古本屋を巡っていたそうですね?本はどのように選ぶことが多いですか?
はい。モデルの仕事で、大阪から上京するときに泊まっていたホテルが神保町にあって。面白い本はないかなと古本屋さんに通っていました。今はなかなか行けていないんですが、機会あればまた行きたいですね。
本を買うときはいつも裏表紙に書かれたあらすじを読んで、中身もぱらぱら読んでみて、ちゃんと最後まで読みきれそうだなという本だけ買うようにしています。興味本位で買って、「積ん読本」にしておくのは嫌なので。それから撮影の現場でおすすめしてもらった本は積極的に読むようにしています。私自身も周りに本をおすすめすることもありますよ。
――改めて、この本をどんな人に読んでほしいですか?
決して難しい本ではなくて、子どもから大人までスッと読める本だと思います。特に子どもの頃に『星の王子さま』を読んだことがある人も、また違った受け止め方ができるかもしれないなと。ネイビーとゴールドの組み合わせの装丁も素敵に仕上がりましたので、誰かを励ましたいときのプレゼントとしても喜んでもらえるのではないかなと思っています。