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(作家LIVE)山内マリコさん「書評」を語る 書きたい本巡り駆け引きも

書評への思いを語る小説家の山内マリコさん(右)=東京都中央区の朝日新聞東京本社、星野学撮影

書評の舞台裏を語る

 朝日新聞では現在、19人の書評委員が読書面の書評を執筆している。山内さんは本の内容や固有名詞をメモする書評専用のノートを作っていることや、大事な部分は床に寝そべって定規でマーカーを引いていることを明かし、会場を驚かせた。

 代わって読書面担当の記者が、読書面の歩みを説明した。

 朝日新聞の社史編修センターによると、最も早い本の紹介記事は1885年。明治政界の有力者でもあった東海散士(さんし)の政治小説『佳人之奇遇(かじんのきぐう)』だった。単発の本の紹介が、面全体での紹介になったのは1924年の「読書ペーヂ」から。途中で「読書頁(ページ)」と名前が変わり、38年まで続いたが、戦争による紙不足の影響もあり終了。再び面全体での紹介となるのは、戦後の52年だった。

 オークションに似た朝日新聞の独特な書評委員会制度についても解説した。

 書評委員会では約100冊の新刊から、委員が書評を書きたい本を選んで「入札」する。ぜひとも欲しい本1冊に「花丸」を、かなり欲しい本2冊に「二重丸」を、そこまででもないが興味のある本は「丸」を好きなだけつける。

 複数の入札が集まった本は、花丸、二重丸、丸の優先順で「落札者」が決まる。1冊の本に複数人が同じ希望の印をつけて競合した場合は、誰が書くのか話し合って決める。

 山内さんは、ある本を巡りこんな駆け引きがあったことを紹介した。

 「他の委員の方が二重丸で来そうだと予想して、わたしは花丸で勝負して競り勝ったことがあったんです。もっと自分が興味がある本があったんだけれど、『そっちは皆さんあまり興味がないだろう』と花丸をあえてつけなかった。でも、いろんな人を押しのけて落札したんだから書かなきゃいけないと後から気付いた」と笑った。

 落札し持ち帰った本を読んだうえで、書かないと判断する場合もある。同じ著者の本を頻繁に掲載するのはなるべく避ける運用のため、山内さんは同じ著者の別の本が近く出るという話を聞き「そちらを優先するために、あえて書かなかったこともある」という。

 入札・落札のあとは、前回までの委員会で落札した本を吟味した結果を各委員が報告する。

 山内さんは「自分が書かないと判断した本でも他の方がほしいと手を挙げたり、入札で競合した人を指名して『読んでほしい』とパスしたりすることもある。たとえば、私が入札しても書かなかった本を人類学者の磯野真穂さんが取って、私よりもずっといい評を書いてくださったことがあった」と実例をあげた。

 後半は、山内さんが実際に執筆した書評を題材にトークが進んだ。

 朝日新聞の書評には大型・中型・小型の3種類の長さがある。山内さんは今月2日付の読書面で『宗教右派とフェミニズム』(山口智美、斉藤正美著、青弓社)と『ジェンダー目線の広告観察』(小林美香著、現代書館)の2冊を合わせ大型評で紹介した。

 「共通性があるテーマの本を組み合わせた。専門家でないからこそ、思い切ってまとめて書けた部分があると思います」

 一方、中型評を書いた『思い出すこと』(ジュンパ・ラヒリ著、中嶋浩郎訳、新潮社)は、2時間足らずで書き上げたという。「難しいものはまる一日かかることもありますが、ラヒリの他の作品も読んでいたのでするっと書けました」。小説などの書評は「導入があって、あらすじがあって、勘所があって……とテンプレ(型どおり)になりやすい。なるべくそこから外れようとはしているけれど、難しい」という。

 その意味では、中学生の青春を描いた小説『腹を空(す)かせた勇者ども』(金原ひとみ著、河出書房新社)の評は工夫をこらした。「(仏小説家ジャック・シャルドンヌの)名言を導入のフックにして、大人の読者の心もくすぐれるかを試した」という。

 山内さんはこう語ってイベントを締めくくった。「クオリティーが高い書評を書こうと、委員はパッションを高く持っている。本を買うところまで(読者を)いざなえたら、めちゃくちゃうれしいです」(木村尚貴)=朝日新聞2023年12月16日掲載

 山内さんのトークイベントは来年2月29日までオンラインで視聴可能。申し込みは募集ページ(https://ciy.digital.asahi.com/ciy/11012340)、またはQRコードから。