室生犀星(1889~1962)の童話集「龍(りゅう)の笛」(亀鳴屋〈かめなくや〉)が刊行された。動物や虫へのあたたかいまなざしが伝わる9編が収められている。
犀星のふるさと、金沢市の室生犀星記念館で名誉館長を務める孫の室生洲々子(すずこ)さんが企画、編集した。「優しい気持ちを持つことや人が生きていくのに大切なことが作品にこめられている。子どもの幸せを願う気持ちにあふれた童話です」
洲々子さんは10年ほど、地元の小学校で犀星について出前読み聞かせ講座をしている。中でも子どもたちに人気のある作品を集めた。
「オランダとけいと が」は冬になって死にそうになる蛾(が)を年老いた時計が自分の体で守る話。「龍の笛」は中国の王様が吹く笛の音が龍の声に似ているとうわさになり、術使いが登場する。
犀星は不遇な生い立ちで、生地近くの寺の養子として育った。「友だちは近くの犀川の魚や虫、鳥だったのでしょう。小さくて弱いものへの思いが作品ににじんでいる」と洲々子さん。家庭をもってからは長男を1歳で亡くした。その悲しみを終生抱いていたのだろう。しみじみとした作品集だ。
漫画家グレゴリ青山さんの表紙の刺繍(ししゅう)や絵が楽しい。「犀星童話集 龍の笛」は版元の亀鳴屋(076・263・5848)から取り寄せられる。同記念館(saisei@kanazawa-museum.jp)でも扱っている。(河合真美江)=朝日新聞2023年12月20日掲載