身近な作品、今は知らないかも
――最初に脚本を読んだ印象はいかがでしたか?
出演のお話をいただいたとき、そういえば最近、テレビドラマで「忠臣蔵」を見ていないなと思って。僕が子どもの頃は、「水戸黄門」とか「大岡越前」、「銭形平次」とか、時代劇が当たり前に放映されていました。年末には「忠臣蔵」をやっていて、大人たちが見ているのを不思議に思いながら、時代劇と現代劇のチャンネルの取り合いをするような時代でしたね。なので「忠臣蔵」は、最初から最後まで見たことはなかったんですが、なんとなく内容は知っているというような、とても身近な作品でした。
でも今の若い方々は「忠臣蔵」をあまり知らないかもしれないなと思って脚本を読んだら、普通の「忠臣蔵」じゃなかった(笑)。大石側からではなく、吉良側から描いたもので、しかも身代わりとなって恨みを晴らしてあげるという、これまでにない視点と解釈が面白いなと思いました。
――今回、脚本も原作者の土橋章宏さんが手がけましたが、原作は読みましたか?
脚本のイメージを大切にするために、読みませんでした。原作があるものは、監督に読んだ方がいいか聞くようにしています。マンガが原作のときは読みます。特にコメディーの場合、驚きとか動揺、気迫みたいなものが絵で表されているので、参考にしています。小説は読む人によって解釈が違うし、その日の感情によってもイメージする映像が違うと思うので、脚本から入った方がいいなとも思っています。
以前出演したドラマ「空飛ぶ広報室」(2012年)では、ドラマと小説ではいい意味で違うところがあって、僕の演じた役も、小説にはない要素を取り入れてほしいと言われたので、原作に引っ張られないように読みませんでした。引っ張られた方がいいという意図があれば読むし、そこのジャッジは自分なりに考えていますね。
話し合い、時間かけ作った
――ムロさんは上野介と、上野介の身代わりになる弟・孝証の一人二役を演じました。難しい役どころだったと思いますが、どのように役作りをしましたか?
主人公は孝証ですが、孝証をどうするかよりも、最初に上野介の役柄を考えるのが大事かなと思いました。上野介という嫌われ役を演じるだけでなく、身代わり役を演じることも考えると、まずは上野介がどれだけ悪い奴か、刃を向けられるほどって、どれだけ嫌な奴なのかを見せないといけないなと。傍若無人で礼儀知らず、優しさなんてものはない、というイメージを構築していきましたが、監督からは「もっと、もっと! 長くなってもいいから、もっと嫌なやつで」とアドバイスいただきまして。人間なんだけど人間じゃないような、嫌な動きを足していきました。
孝証は、上野介から家を追い出されて、路頭に迷っているなまぐさ坊主。長男に生まれなかったばかりの不幸はあるけれど、愚痴を言っているだけで何もしない、与えられた場所でも反発して、どうしようもない人間です。役作りというよりも、上野介とは正反対になるように、現代人っぽい動きを取り入れたりして、その時代にはそぐわないような動きをつけていきました。
――上野介と孝証、上野介の身代わりとなる孝証も含めると三役ともいえますが、撮影では役柄を分けて進めたのでしょうか?
順番はごちゃごちゃでしたが、上野介か身代わりか、という区切りはつけていました。柄本明さん演じる柳沢吉保の前では、上野介に見えないといけないので、身代わりとして上野介の演技をするのは難しかったですね。コメディーとして面白い要素もあるところなので、そこを立てながらも、柄本さんの前で何ができるかなと、緊張しながら考えていました。
――上野介の側近、斎藤を演じた林遣都さんとのシーンがとても面白かったです。
ふたりで作っていった感じですね。最初のシーンは、なぜ孝証が身代わりになるかを描く大事な場面なので、ここが面白くないとダメだなと思いました。お金欲しさとはいえ、やりたくないのにやらされる、孝証がやろうと決心するまでを物語として成立させないと、軽い話になってしまうので。後から、斎藤が家のことを考えて行動している、その思いも強調されるようにしないといけない。ふたりで話し合いながら、時間をかけて作っていけたのはよかったですね。
林くんが「合わせるので、好きに動いてください」って言ってくれたので、斎藤をいかに困らせるか、テストと本番で動きを変えたり、大袈裟にしてみたり、予定調和にならないようにしました。どれだけ遊びを作れるか、もっと何かできないかと考えたりするのも楽しかったです。
――大石内蔵助役の永山瑛太さんとは、「サマータイムマシン・ブルース」(2005年)以来、20年ぶりの共演となりましたが、いかがでしたか?
大石と孝証が吉原の朝帰り、酔っ払いながら歩くというシーンが最初だったんですが、お互いちょっと緊張してましたね。監督に「自由に、酔っぱらった感じで動いてください」って言われたんですけど、よく考えたら、20年前に自分たちがよくやってたことじゃんって、気恥ずかしくなってきちゃって(笑)。そんな懐しい話もしましたね。後半、お寺で、ふたりで向き合うシーンは、大石の生き様を聞いて、孝証が人としての生きがいを見つける大事な場面でもあって、とても印象に残っています。
今、身代わりになるなら…
――作品では嫌々ながらも身代わり役になりましたが、ムロさんが身代わりになってみたい人はいますか?
お正月に高校ラグビーの決勝を見て感動して、その後、国立競技場に高校サッカーの決勝を見に行って、また感動して、もう1回人生があるなら、あの若さで、あの緊張感の中で戦うってどんな感じなのか、選手になってみたいと思いました。僕は小学生の時に野球をやっていたんですけど、才能がないことを思い知らされて辞めてしまったので。才能があったとしても開花するまで努力しなかったので、学生時代にあそこまでやっていたら、どんな人生があるんだろうなと思いながら見ていました。息子だとしてもおかしくないような年齢の彼らの真剣勝負を見て、あそこに立ってみたいって。できないからこそ、思ってもいいかなと。
――孝証には嫌われ者の兄、大石には少々不甲斐ない藩主と、いつの時代も難しい上下関係があるものですが、ムロさんが思う理想の上司とはどんな人ですか?
今の時代、何がいいんでしょうね? もしかしたら、今の時代だからこそ、厳しいことが言える人、しっかり言葉を持っている人かもしれませんね。自分も含めてですが、怖くて言いにくいということが多いように思うんですよね。そこのところもわかった上で、しっかり叱ること、ほめること、賛成も否定もできる人なのかなと思います。あと、部下には選択肢も作ってあげないといけないと思うので、任せることも大事ですよね。
――理想の人はいますか?
サッカーのオシム監督かな。異国の方で、戦争のことも知っているオシムさんが、サッカーを通して何を伝えたのか。海外の方だからこそ、理解しやすいこともあるかもしれませんよね。イチローさんにも会ってみたいです。スポーツ選手で、日本を離れて世界で戦っている方たちからは、教えてもらうことがたくさんあるんじゃないかと思います。