以前小笠原諸島を旅したとき、子どもが多くて小学校の教室が足りないという話を聞き、少子高齢化の日本にそんな場所があるんだと驚いた。伊豆諸島の青ケ島では、1日9席しかないヘリの予約を、村長の公務時でさえ関係者総出で電話をかけまくってやっと取ると知り、その大変さに愕然(がくぜん)とした。宮古島では、子どもの小学校入学を地域をあげてお祝いする慣習があると教えられ、微笑(ほほえ)ましく思った。
日本には400を超える有人島が存在し、それぞれに個性があり面白い。日本に離島がなかったら、国内旅行は魅力半減だろう。
日本で唯一の島マガジン「島へ。」は、最新号の慶良間(けらま)諸島「座間味(ざまみ)島」のほか、バックナンバーの特集タイトルも壮観だ。隠岐諸島「島前・島後」、「北大東島」、「御蔵(みくら)島」イルカウォッチング!!、日本三景「松島」……今すぐ手にとって出かけてしまいたくなるラインアップ。
ページを開くと、「日本の知られざる島へ」「イラスト旅日記」「島宿めぐり」「ココロ躍る島の祭旅」といった紀行エッセーが並び、なかには「離島郵便局をゆく」なるマニアックな連載もあって読みたくなる。
一方で、離島をめぐる現状は楽しいばかりではない。高齢化や財政難、人手不足による産業の衰退など多くの難題を抱え、先の小笠原のような話はむしろ例外である。
本誌でもそうした課題に呼応するように、課題解決へ向けた島々の取り組みを取り上げる記事が、紀行エッセーの間に紛れ込んでいる。
「離島の羅針盤」「離島のSDGsを考える」「離島の元気企業図鑑」、さらに毎号どこかの島の焼酎や泡盛などを取材した「島酒トレンド」という記事もあり、あの手この手で島の活性化を後押ししようという狙いがうかがえる。
昨今は、元気な離島の例として、隠岐諸島・中ノ島の海士(あま)町の取り組みが取り上げられることが多いが、そこまで大々的でなくても、成果をあげている小さな事例は各地にあるはず。その意味で本誌の存在意義は明らかだろう。互いの知恵と経験を共有しながら、よりよい未来を探る。そのための媒介役を担おうというのである。
以前とある島を訪ねたとき、現地で出会った男性が、島同士の交流ネットワークの大切さを訴えていたのを思い出す。今では本土を介さない島相互のダイレクトな繋(つな)がりが、あちこちで生まれていると語っていた。
「島へ。」にとって、旅行雑誌としての顔は、実は片面でしかなく、むしろ正面はこっち側なのかもしれない。
と思ったら、女性アイドルが、東京都の旧江戸川にある妙見(みょうけん)島の散歩エッセーを書いていて、島と言ってもそこ中洲(なかす)では?と可笑(おか)しくなった。そんな守備範囲の広さもまた、この雑誌の面白いところなのだった。=朝日新聞2024年2月3日掲載