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圧倒的な才能に翻弄される人々 平井大橋「ダイヤモンドの功罪」(第142回)

 昨年「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載が始まるや、たちまち大反響を呼んだ異色の野球マンガ『ダイヤモンドの功罪』(平井大橋)。年末に発表された「このマンガがすごい!2024」オトコ編で第1位に輝き、3月下旬以降に発表される「マンガ大賞2024」にもノミネートされている。

 ずば抜けた身体能力を持つ小学5年生・綾瀬川次郎は、どんなスポーツをやっても指導者に絶賛され、周囲から孤立してしまう。本人は競争や勝敗には興味がなく、ただ仲間とスポーツを楽しみたいだけなのに、大人たちは決して放っておいてはくれない。「楽しい野球」を目指す弱小少年野球クラブ「足立バンビーズ」に入団し、ようやく念願がかないそうになったのも束の間、小学生離れしたピッチングに心を奪われた監督から強引に「U12日本代表」の選考会に送り込まれてしまい……。

 既刊4巻まででいえば試合の描写が少なく、野球の面白さはほとんど描かれない。胸を熱くする「友情・努力・勝利」も描かれない。テーマは“圧倒的な才能”と、それに翻弄される人々だ。野球マンガとしては今までにない斬新な切り口だろう。

 同じく“天才”をテーマにした作品というと、10年前の2014年から「ビッグコミックスペリオール」(小学館)で連載された『響~小説家になる方法~』(柳本光晴)があった。
「マンガ大賞2017」大賞を受賞し、平手友梨奈主演で実写映画化もされている。

 鮎喰響(あくいひびき)はわずか15歳にして史上初の芥川賞・直木賞をダブル受賞した天才作家。一見おとなしそうな文学少女なのに、空気を読むことは一切なく、何かあればすぐに暴力に訴える「なんとかと紙一重」のタイプだ。その強烈極まりない存在に周囲の作家や編集者も平静ではいられず、中には彼女の小説を読んで筆を折る者まで出てくる。

 特別な親がいるわけでもない。人並み以上の努力を重ねたわけでもない。ただ単に持って生まれた「圧倒的な才能」だけで、必死に走っている凡人たちを軽々と抜き去っていくのは響も綾瀬川も変わらない。その才能を目にした人々の反応に焦点が当てられていることも共通している。

 大きく異なるのはキャラクターだろう。他人の感情などまったく気にしないエキセントリックな響と違って、綾瀬川の内面はごく普通の繊細な少年に過ぎない。自分のせいで泣き、挫折する少年たちをさんざん見てきた綾瀬川は、そのことで自身も深く傷ついている。才能ばかり注目され、本人の希望など見向きもされない。チームに大きく貢献する輝かしい才能は、一方で多くの“犠牲者”も出してしまう。

 例えばU12日本代表でチームメイトになる円(まどか)は一流のピッチャーであることに加え、明朗快活で気配りも細やかな、チームの中心になれる少年だ。綾瀬川さえいなければ、U12でもエースになっていたに違いない。それでも円の明るい性格や前向きな姿勢は変わらず、綾瀬川に嫉妬心や敵対心を持つこともないのだが、あるとき心の中に暗雲のように湧く「同じ学年に、コイツ、ずっとおんのんか」という言葉はひたすらに重い。

 第1話の冒頭では袖に「群馬」の文字が入ったユニホームでマウンドに立つ高校生の綾瀬川が描かれ、小学生編だけでは終わらないことが示唆されている。U12世界大会も終わり、3月には第5巻が発売。巨大な才能をめぐる異色の物語は、これから本番の“夏”を迎える。