「手塚治虫の歴史教室」書評 7作品に浮かぶ歴史観
評者: 澤田瞳子
/ 朝⽇新聞掲載:2024年03月16日
手塚治虫の歴史教室
著者:手塚 治虫
出版社:いそっぷ社
ジャンル:
ISBN: 9784910962054
発売⽇: 2024/01/24
サイズ: 21cm/327p
「手塚治虫の歴史教室」 [著]手塚治虫 [解説]三浦佑之
昭和の漫画界を牽引(けんいん)し、今なお多くの読者の心を捉えてやまない手塚治虫。本書は大和朝廷の成立を描いた『火の鳥・黎明(れいめい)編』から第2次世界大戦下の日独を舞台とする『アドルフに告ぐ』まで、そんな手塚の歴史観が強く感じられる7作品を収録し、歴史家・三浦佑之による解説を添えた、手塚治虫入門兼歴史入門書である。
江上波夫の騎馬民族征服王朝説がそうであるように、手塚に影響を与えた学説の中には、今日ではほぼ否定されているものもある。だからこそ本書は手塚の歴史観とともに日本の歴史観の変遷をも物語り、読者は手塚の眼(め)を通し、彼が生きた時代そのものにも間接的にアプローチし得る。
一方で読者は手塚が古今東西さまざまな人々を描きつつも、常に国家や権力に虐げられる弱者から物語を紡いでいると気づくだろう。変わる歴史観と変わってはならぬ歴史観、その双方について学ぶきっかけともなる一冊である。