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「都市に侵入する獣たち」書評 私たちが快適な場所だからこそ

評者: 小宮山亮磨 / 朝⽇新聞掲載:2024年05月04日
都市に侵入する獣たち: クマ、シカ、コウモリとつくる都市生態系 著者:ピーター・アラゴナ 出版社:築地書館 ジャンル:科学

ISBN: 9784806716624
発売⽇: 2024/03/12
サイズ: 13.6×19.5cm/312p

「都市に侵入する獣たち」 [著]ピーター・アラゴナ

 クマがあちこちに出て大変だという話が昨年、メディアでずいぶん騒がれた。過疎化で畑や森が放置されたからだとか、人間のせいで森が減ったからだとか言われた。何にせよ、歓迎できない現象。そう考える人が多かったと思う。
 本書によると、実は似たようなことがすでに米国の各地で起きている。
 たとえばコヨーテが生息域を広げて、都市部にも進出。子どもを死なせる事件も起きて、ニューヨークのマンハッタンでは警察が麻酔銃を持って追いかけ回した。ロサンゼルスではピューマが動物園からコアラをさらって食べてしまった。
 さらに、クマ。ニューヨークのお隣にあるニュージャージー州には5千頭が生息していて、密度にするとアラスカより多い。都市部の個体は生ゴミなどを食べて、野生よりも大きく育つという。
 こうなった理由はいくつかある。公園をつくったり木を植えたりと、街に緑が増えた。都市に近い生息地が保護されるようになった。狩りをする人が減った。
 そして何より、人間が都市をつくった、気候が穏やかで水も豊かな場所は、動物にとっても快適。環境破壊でいなくなっても、条件が整えば戻ってくる。要するに、いて当たり前なのだ。
 すめる環境があれば、殺してもまた増える。駆除を続けるのはコストが高いそうで、著者はおすすめしていない。
 ニューヨーク郊外ではコヨーテがいるのを住民の多くが楽しみ、けが人が出るのも「許容できる」と調査に答えたという(本当に出没したら共存への意欲が「急速に減退」した、というオチもつくのだけれど)。
 日本でもいずれ、街中でクマやイノシシを見ることが珍しくなくなるかも。とはいえ気をつけて距離をとっていれば、大きな事故はめったに起きないようだ。うれしくはないけれど、慣れてしまえば意外と悪くない――そう感じる人も、けっこういそうに思えるのだ。
    ◇
Peter S. Alagona 環境史家、保全科学者、自然文化地理学者。米カリフォルニア大サンタバーバラ校の環境学教授。