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「アメリカ映画の文化副読本」書評 表層的なイメージ打ち砕く考察

評者: 小澤英実 / 朝⽇新聞掲載:2024年05月25日
アメリカ映画の文化副読本 著者:渡辺将人 出版社:日経BP 日本経済新聞出版 ジャンル:文化人類学・民俗学

ISBN: 9784296119479
発売⽇: 2024/01/26
サイズ: 18.8×2.1cm/256p

「アメリカ映画の文化副読本」 [著]渡辺将人

 視覚表現である映画は、観客が見た人やものに抱く先入観、言い換えればステレオタイプをどうズラすかで物語が動く。アメリカ映画の文化的注釈をとことん掘り下げ、日本人がアメリカに抱く表層的なイメージを打ち砕く本書の面白さもその延長線上にある。
 作品の舞台となる諸都市のカラーから、アメリカ人の社交、教育、信仰、人種、政治、職業と多岐にわたるアングルで、移民国家アメリカの多様性とそれゆえの分断を浮き彫りにする。現場の実践によるミクロな視点と、研究や資料に基づくマクロな視点の両立に説得力と魅力がある。特に著者の経歴が生きるアジア系コミュニティーと選挙・政治についての解説は貴重。映画の副読本にとどまらない、アメリカ理解が深まる良書だが、著者の映画愛がほとばしる作品解説にもひき込まれ、見たい作品が増えすぎて困ってしまう。
 本書も総体としてのアメリカを切り取る一つの視点という留意は必要だが、保守とリベラル、主流派と少数派という二分法では捉え切れない大国の立体感が味わえる。