「面白い」という自分の感性を大事に
――「クチャクチャ」と、風船ガムを噛んでいる男の子。「プー」ガムをふくらませると、風船がどんどん大きくなって、顔のようなものが現れて……なんとネコの顔に! と、思ったら……ネコが男の子を吸い込んじゃった!? 奇想天外な展開が楽しい、きむらよしおさんの絵本『ねこガム』(福音館書店)。男の子とネコとガムだけというシンプルな話に、ハラハラドキドキさせられる。作品のアイデアはどこから生まれたのだろうか?
はっきり覚えてないんです。ガムも噛まないんですけど、なんか思いついたんでしょうね。『ねこガム』の前に、『がまんガム』というラフを描いていて、同じような設定で、男の子とネコがガムを噛んでいるんですけど、そのガムが苦いんです。それをがまんして噛めって、包み紙に書いてあるので、がまんして噛むんですが、もうがまんができなくなってガムを出すと、気持ちのいい甘い風が吹き抜ける。もういっぺん噛むと、また苦い。で、また出すと気持ちがいい。その気分を何回も味わえる、という話です。それで終わり。オチなんかないんです。たぶん、これを絵本にしなかったのは、オチがないからかなと思います。噛んで出して噛んで出してって、なんの変化もないし。でも、ぼくは結構これはこれで好きなんですけどね。『ねこガム』は、一応、オチがついていますし、変化もあるので、編集部にラフを出したら、すぐに決まって、すぐ描きました。
――「次はどうなるんだろう?」とページをめくるのがワクワクする本作。子どもたちに人気の絵本だが、きむらさんが作品づくりで心がけているのは、自分が面白いと思うものだという。
いちばんの読者は自分なので、自分が面白いと思うものを作っています。子どもが気にいるようにとは考えないですね。自分が面白いと思うものをほかの人が面白いと思ってくれればいい。少数の人でも構わない。自分にとっての面白さがいちばんですね。『ねこガム』は、ガムが膨らんでネコになったら、今度はネコが男の子を飲み込んで噛むという、話全体がひとつのアイデアになっている単純な作品ですが、正直、そんなに評判になるとは思わなかったです。ネコが平然と男の子を噛んでいるところが、ぼくにとって面白いところですね。
惹かれるのはナンセンスな絵本
――もともと、グラフィックデザインの仕事をしていた、きむらさん。もっと自分らしい表現をしたいという思いから、絵本の世界へ入ったという。
グラフィックデザインの仕事は、クライアントの言うことを聞かないといけない。どんなにいいものを描いてもボツになることも多くて、あまり面白さを感じられなかったんです。もっと自分らしい表現をしたいと思っていたところ、雑誌「月刊絵本」(盛光社)で、絵本作品を募集していたので応募したら、佳作に選ばれました。いろんな顔を描いた『みんないっしょ』という作品です。バババッと簡単に作った絵本で、子ども向けでもないし、こんなんで佳作でいいの? って、絵本の仕事は楽やなと思ってしまいました。実際はじめてみたら、なかなかうまくできなくて大変ですけど、自分が納得できるものができたら面白いですね。
――主人公が不思議な世界に迷い込んでいく『ジンジンジン』(講談社)、『星の工場』(白泉社)など、初期の作品は物語のある作品が多かったという。
最初の頃は、物語をどう作るかを考えていました。でも、長新太さんの『ごろごろ にゃーん』(福音館書店)とか、ナンセンスなものが好きだったので、だんだんそういうものを作りたいと思うようになりました。長さんの作品は大好きですね。意味を相手に考えさせるというか。『ごろごろ にゃーん』なんて、ただ飛行機が飛んでいるだけですからね。どう捉えたらいいか。でも面白いんですよね。そういうアイデアってすごくいいなと思います。
『ぺこぺこライオン』(福音館書店 *)は、高橋源一郎さんの小説『優雅で感傷的な日本野球』(河出書房新社)をヒントにして作りました。「早駆けのニワトリ」と「腹ペコのオオカミ」が追いかけ合うところが面白いというか、笑えるというか、気持ちを揺すぶってくれるようなものだったんです。『ぺこぺこライオン』は、腹ぺこのライオンがラクダを追いかけ、ラクダが逃げる、それだけの話です。草原を走って、それで終わる。なにも起こらないんです。ナンセンスなんですけど、そういうのってなかなか難しくって、ついつい理屈を通そうとしてしまう。もちろん、それでもいいんですけど、難しいのは難しいですね。
*『ぺこぺこライオン』(福音館書店):『はしれはしれ』に改題して絵本館からも出版
驚きや不思議さのあるものが面白い
――子どもの頃は、いろんな遊びをしていたという、きむらさん。お寺や川、墓場までも遊び場だった。
毎日、ほとんど外で走り回っていましたね。住宅地でしたが、当時は、まだ車も少なかったので、道路やお寺、川、琵琶湖岸などで走り回って遊んでいました。ドッジボールや野球、ボール当て、缶蹴りや水雷艦長、墓場でかくれんぼなど、話しきれないぐらい、いろいろなことをしていました。夏はもちろん、毎日、琵琶湖へ泳ぎに行っていました。雨の日は家の中でダンボールや座布団などで隠れ家を作ったことも。絵を描くことも好きで、漫画や絵をよく描いていましたね。
――きむらさんが面白いと感じるのは、驚きや不思議さをともなうもの。最近驚いたのは、カメムシの名前だという。
ぼくは、赤瀬川原平さんの大ファンなんです。一時期、赤瀬川さんが提唱した「トマソン(不動産に付着していて美しく保存されている無用の長物)」にのめり込んで、自分でも探しました。ぼくが住んでいる京都は古い街なので、わけのわからんものがあるんです。世の中にとって意味のないもの、しょうもないものなんですけど、それを発見して面白がる。意味とか理屈じゃないところで面白がるというか。
最近、発見したのはカメムシの名前。カメムシって、臭いし、嫌われ者ですよね。でも、辞書で調べたら、「亀虫」だけでなく、「椿象」と書くって知ったんです。これには驚きました。なんで椿の象なのか、口が象の鼻みたいに長いとか、中国からきているとか、はっきりとはわからなかったんですけど、椿の象ってかっこいいですよね。ぜんぜん似合わんでしょ、カメムシにね。驚きますね。トマソンと一緒で、そういう発見が面白いですね。