「学校に行かない僕の学校」
ある事がきっかけで家にひきこもり、不登校になった中学2年生の薫。学校には行けないけど家からも離れたくて、自分で見つけた全寮制の「東京村ツリースクール」に入ることにした。
そこは森の中にあるフリースクールで、時間割もなく、自分のことを自分でやる以外は何をしても自由だった。自然の中でゆったりとした時間を過ごすことで自分の心と静かに向き合うことができた薫は、同じ学年の銀河やイズミと生活を共にすることで、心も少しずつ解放されていった。そしてずっと気になっていたことを告げるためにある人に会いに行く。そこで自分のやりたいことに気がついた薫は前へ一歩ふみ出すことに。
わが子が学校へ行かないという選択をしたら多くの親はうろたえるのではないか。しかし、この物語の主人公のように、自分の意思で行動することができれば、その選択が未来へつながっていると親も信じることができる。学校へ行けなくても、それぞれの子どもが自分に合った居場所を見つけられるようにサポートしていきたいと思う。(尾崎英子作、ポプラ社、1760円、小学校高学年から)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】
「ひき石と24丁のとうふ」
岩手県二戸市浄法寺町の人里離れた山の中、一軒の豆腐屋が現れる。かっぽう着の店主は目がほとんど見えない、90歳を超えた小山田ミナさん。早朝から一人で毎日6時間も大豆を石臼でひき、沸かして煮立てて搾って混ぜて……全て昔ながらの手作りで、一日かけて24丁の豆腐が出来上がる。
山の水と薪の火加減、風土と天候に人の手間を重ねて生まれる味がある。速くて便利な産業とはかけ離れた視点から、人間の営みを生き生きと伝える写真絵本シリーズの新作。取材に16年かけた作者の姿勢と響き合う。(大西暢夫著、アリス館、1760円、小学校高学年から)【絵本評論家 広松由希子さん】
「ぼくのねこ ポー」
雨の日に、捨てられたかもしれない猫を見たら、どうする? 近所をたずねまわっても飼い主が見つからなければ、自分の猫にしたいと思う? でも、名前をつけ、餌もトイレも用意していっぱい可愛がろうと思っていた矢先に、飼い主が現れたら? 主人公のとおるは、拾ってきた猫を手放したくない気持ちと、飼い主に返さなくては、という気持ちの間で揺れ動く。子どもの内面を見事に描いた物語で、猫や子どもの表情を伝える絵もたくさんついている。読者は主人公に自分を重ねて読むことができる。(岩瀬成子作、松成真理子絵、PHP研究所、1430円、小学校低学年から)【翻訳家 さくまゆみこさん】=朝日新聞2024年6月29日掲載