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「レスター・バングス」書評 「実証」や「研究」から遠く離れて

評者: 椹木野衣 / 朝⽇新聞掲載:2024年07月13日
レスター・バングス 伝説のロック評論家、その言葉と生涯 著者:ジム・デロガティス 出版社:トンカチ ジャンル:エンターテイメント

ISBN: 9784910592343
発売⽇: 2024/05/01
サイズ: 12.8×18.8cm/448p

「レスター・バングス」 [著]ジム・デロガティス

 初めてロックのレコード(シングル盤)を買ったのは1975年のこと。それからほぼ50年(半世紀!)過ぎても、まだロックを(いまこの文章を書きながらも)聞いている。その魅力はなんだろう。少なくとも、わたしにとってのその最盛期は、本評伝で取り上げられた「ロック評論家」レスター・バングスがわずか33歳で他界した82年くらいまでな気がしてならない。
 「ロック評論家」とカッコで括(くく)ったのは、「ヘヴィ・メタル」や「パンク・ロック」といった未知の領野をいち早く言語化しながら、彼ほどロックを「評論」することなどできるのか、という問いに肉薄した物書きはいないからだ。レスターが死んだからロックも力を失った、などと言いたいわけではない。だが、あれほどロックを愛した最晩年のレスターが、ちょうどその頃から「この先なにを書けばいいのか自分にはわからなくなった」と書いていたのも事実だ。
 レスターの生涯について取材し尽くして書き上げられた本評伝からは、生身のレスターが浮かび上がってくる。その「肉声」を通じてロックとはいったいなんなのかについて考える格別の機会を提供してくれる。レスター亡きあとのロック関連の書籍は「〝事実(ファクト)〟もしくは理論を盾に取った主張ばかりが詰め込まれる傾向」が強くなった。だが、ロックほど「実証」や「研究」から遠いものはない(でなければそもそも惹〈ひ〉かれなかっただろう)。レスターはそれらのいずれとも生涯、徹底して距離を取った。
 原著の刊行は四半世紀前。だが、この点で本書の意義はまったく衰えていない。どころか、増している。本書に続き、日本ではまったく読むことができなかったレスターの単著が立て続けに出されるという。それまでは、レスターをモデルとする評論家が登場する映画「あの頃ペニー・レインと」でも見ながら待つことにしよう。
    ◇
Jim DeRogatis 1964年、米国生まれ。音楽評論家、ジャーナリスト。ドラマーでもある。