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アシュリー・ウォード「動物のひみつ」 ヒトと何が違うのかと考える

 原題はThe Social Lives of Animals(動物の社会生活)である。著者のアシュリー・ウォード教授はオキアミからチンパンジーまで、集団をつくる様々な動物たちの行動を見事な構成と文章で描きだしている(擬人化的な表現が少し多いが)。

 動物の社会行動は教授の若い頃からのテーマだったという。本書を読む方(ヒト)は「へーっ!」「すごい!」といった気持ちになり動物に対する認識を変える方もおられるのではないだろうか。例えばシロアリは、植物の断片を巣内の一室に運んで肥料にし菌を育てて餌にする。スズメダイの一種は集団で一つの住処(すみか)を使うが、新居に移動するとき、もし一匹、元の住処に残っていたらその個体がいないことに気が付いた個体が連れに戻ってくる。ネズミは、血縁関係はない個体であってもその個体が飢えているときは食物を分け与える。ヒヒの仔(こ)は、成獣のヒヒが餌になる茎を掘り起こしているとき、通常は捕食者が襲ってきたとき使われる警戒声を発し、成獣が急いでその場を離れた後、茎を手に入れる。

 ところで、特に、最終章「類人猿の戦争と平和」では、ヒトと類人猿とのよく似た心理特性も多く挙げられており、我々ヒトは他の動物たちと何が違うのだろうと考える方もおられるかもしれない。それに対する答えの一つは「ヒトは時間的・空間的にとても広い認知世界の中で因果関係を考えて生きている」ということだと思う。チンパンジーは海を見て、その向こうに何があるか、海はどうしてできたのか等とは考えないだろう。森は、自分が子供だった頃と比べなぜ変わったか等(など)とは考えないだろう。そんな特性にも後押しされてヒトは科学的思考も発展させ、例えば「人類の平和」といった概念を生み出したのだろう。=朝日新聞2024年8月10日掲載

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 夏目大訳。ダイヤモンド社・2200円。3月刊。6刷5万5千部。「現代の『シートン動物記』として親子で楽しまれ、700ページもの分量がある本書の読書体験を喜んでいる読者も多い」と担当編集者。