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井上新八さん「時間のデザイン」インタビュー ゲームが教えてくれた「毎日やることは続く」

井上新八さん=篠塚ようこ撮影

少しずつでいいから、こつこつやる

――「時間のデザイン」を書かれたきっかけを教えてください。

 2023年11月に1冊目の『続ける思考』を出しました。その後で、次は何を書こうかなと思って自分のやっていることを考えていたら、「時間をデザインする」ということに行き当たりました。要するに習慣を組み立てて、1日の中に割り振っていくということです。それに即して次の本を書いてみようと考え、1年がかりで書き上げました。

――ブックデザイナーの仕事をしながら、どうやって本を書いたのですか?

 1日に必ず5分は書く時間をつくりました。土日はブログを書くと決めているので、1~2時間くらい書けるし、月曜は原稿を書く日として割り振っています。これも時間のデザインです。本を書く習慣をつくりながら、習慣の本を書きました(笑)。

――気がついたら時間が経っていて、「時間がない」と思っている人はたくさんいると思います。

 僕がやっている習慣は、量や種類は多いですが、一つ一つはすごく小さい。原稿を書く時間も1日5分か10分くらい。でも毎日積み上げていくと、1年でかなりの時間になります。少しでもいいから毎日こつこつやる。続けていくと、できることがあると実感しています。

20年で築き上げた朝のルーティンは70

――「時間のデザイン」は、どういう人に読んでほしいですか?

 いちばん読ませたかったのは自分です。自分がやってきたことは無駄じゃないと確認するために書いたようなところがありますから。フリーランスで働いていたり、自宅で仕事をしたりしている人は仕事に追われて時間がありません。私もそうでした。すると心が疲弊してきて体にも異変が起きます。だから仕事以外のことをやるのも大事にしたい。20年ぐらいトライ&エラーを繰り返しながら、今のルーティンを築き上げました。こういう時間の使い方が誰かのヒントになればうれしいです。

――ご自身の本を読んだ感想は?

 よくがんばったなと思います。今、朝にやっていることを数えたら70ぐらいありました。よくこれだけ詰め込んだと思います。でも、それが大変だとは思っていません。

――「時間のデザイン」を読んで、5分、10分の時間をつくることの大事に気づかされました。

 5分でできることを考えるということを大事にしています。5分だとそれほど負担にならない。でもたった5分でも、それを1年、毎日続けたらけっこうな時間になるんです。5分でできることをたくさんやる、というのが発想の原点です。

次の行動を決めてつなげていく

――「時間のデザイン」には「ゲームをしたら日記を書く」とあります。井上さんにとってゲームはどんな時間ですか?

 リフレッシュの時間です。それに自分の習慣の原点だったので、ゲームを手放すわけにはいきません。

 もともと習慣っていうものを全然意識しないで生きていたけど、ただ続いていたことが一つだけあった。それが「おいでよ どうぶつの森」。当時は毎日、水をやらないと花が枯れてしまうゲームだったから、毎日15~20分必ずやってました。

 次の行動へのきっかけをつくるために、「どうぶつの森」を起点に何かやったら続くかなと思って、朝起きたら、ゲームをやる→日記を書く→仕事をするという流れをつくってみたら、朝に必ず仕事をやる習慣が生まれたんです。私の習慣はその三つから始まっています。大事なことはゲームの「どうぶつの森」から教わりました。

――井上さんが習慣を意識するようになったのはどうしてですか?

 仕事が忙しすぎて体を壊したことがきっかけです。フリーランスとして仕事が順調にいき始めたことで仕事の量が増えすぎて、仕事に追われるだけの状態になりました。それで生活も不規則になって、身体に蕁麻疹が出たり。でも仕事を減らしたくなかった。なんとかしなきゃ、と思って始めたのが、すべてを「習慣化」して、時間をデザインすることでした。

――「時間のデザイン=習慣化」なんですね。習慣化をするためには何が大事なのでしょうか?

 例えば、コーヒーを淹れたら15分読書をするとか、歯磨きしたら2分筋トレするとか、どのタイミングで何をどれだけやるかを決めていくのが習慣化だと思っています。いつ、何を、どのくらいやるのかというルールを明確にして、それをつなげていくことです。

 私の場合、朝起きたら水を1杯飲んで、ベランダに出て空の写真を撮る。その写真をインスタグラムに投稿して、外の気温を予想します。そしてベランダで深呼吸をして、ストレッチをして、部屋に戻って体温を測って、と次の行動を決めて連鎖させていきます。その流れの中に仕事やゲームや筋トレ、ジョギングも入れています。最後までいくと、1日でやらないといけないことが全部終わっています。それがすべて午前中で終わっているのが理想だと思っています。

集中力のいる仕事を片付けるのは朝

――何かを始めようと思っても、なかなか始められないことがあります。どうやって始めたらいいのでしょうか?

 5分で終わることに分解することです。全部やろうと思うと手がつけられないので、まず「これを5分にするにはどうしたらいいか」を考えます。例えば、ダンスの練習は1日5分しかしないのですが、毎日5分でできることは何だろうと考えて、少しずつ振り付けを覚えていく。例えば1日1秒のフリ付けを覚えるとして、それを1年続けると、5分くらいの振り付けのダンスが踊れるようになっていたりします。僕はその方法で毎年一つ振り付けを覚えて、ダンスの動画を投稿したりしています。

 なんとなくでも毎日やっていると、絶対こんなことできないと思っていたことが1年後にできるようになっていたりします。短歌を1日1首つくっていますが、ある日突然、今まで詠んだことがないような短歌ができる日があります。なんでもいいから続けることって大事だと思います。

――井上さんは集中するために朝4時に起きて仕事をするとか。

 朝の静かな時間に集中力のいる仕事を片付けるようにしています。昼になるとメールが来始めるので、何かを生み出す仕事をするには集中できません。メールが来る時間から逃れるために、なるべく早い時間にやります。やることが増えすぎて、起きるのがどんどん早くなっていきました(笑)。

映画の時間までに仕事を終わらせる

――夜はどんなに忙しくても、映画を見に行く日をつくっているそうですね。

 はい。夜はだいたい映画を見に行って、早い時間からご飯を食べて、夜は11時ぐらいには寝ていますね。

――井上さんは、いつ寝ているのかと不思議でした。

 しっかり寝ていますよ。超短時間睡眠ではないです。5時間ぐらいは寝るようにしています。忙しいときはその分、早起きをしているので、睡眠時間が短い日もありますが。

――終わりの時間を決めるのは大事ですね。

 朝に、その日の夜の映画チケットを買ってしまうことも多いです。そうすると、映画が始まるまでに全部終わらせないといけない。その日は絶対に映画が始まるまでに終わらせる! と、時間を決めてしまいます。

自分を甘やかすルールは「絶対守る!」

――自分を甘やかす時間も必要ですか?

 ほとんど甘やかしていますね(笑)。ルールを決めているのもそのためです。忙しくなるとゲームもしなくなるし、マンガも読まなくなります。でもどんなに忙しくても「1日15分必ずゲームをやる」「1日1話必ずマンガを読む」と決めてしまう。忙しくても時間に余裕があってもこのルールは絶対に守るようにしてます。やりたいことをちゃんとやろうということです。僕は映画を見る、漫画を読む、ゲームをすることをいちばん大事にしたいと思っているので、自分を甘やかすルールは絶対守ることにしています。

 自分を甘やかす時間はつくったほうがいいです。自分を甘やかすために習慣をつくるのが一番。だらだらするとか、ぼーっとする時間は名前をつけるといい。僕はだらだらスマホを見る時間は「企画を考えている時間」と名付けています。ぼーっとする時間は「瞑想」。ゲームをしている時間は「生きるための時間」です。

――「時間のデザイン」の2章以降の「早くやる」「たくさんやる」「なんでもやる」というのは、なるほどと思いました。

 フリーランスを始めて25年になりますが、いっぱい失敗して駄目になりそうな時もありました。早く、たくさん、なんでもやるという三つのルールを守ってきたから生き残れたと思います。これは自分の中ではすごく大事なこと。読んでもらった人には、役に立つところだけピックアップして自分なりに解釈して役立ててもらえたらうれしい。仕事量が多い人には役に立つ考え方かなと思います。

【後編はこちら】

>ブックデザイナー・井上新八さんが選んだ「はたらくを考える本」 仕事は小さなことに神が宿っている(4月4日公開予定)

インタビューを音声でも!

 好書好日編集部がお送りするポッドキャスト「本好きの昼休み」で、井上新八さんのインタビューを音声でお聴きいただけます。