「読書アンケート2024」書評 ひきこまれる本への愛
評者: 御厨貴
/ 朝⽇新聞掲載:2025年04月19日

読書アンケート 2024――識者が選んだ、この一年の本
著者:みすず書房
出版社:みすず書房
ジャンル:文学・評論
ISBN: 9784622097594
発売⽇: 2025/02/19
サイズ: 21×1.1cm/192p
「読書アンケート2024」 [編]みすず書房
本は異なもの味なもの。『読書アンケート2024』という素っ気ないタイトルで見開き上下2段にびっしりと本にまつわる文章が並ぶ。やめとくかと、とっさに思う。でもパラ見しちゃうともうダメ。何だかわからぬ読書の世界に巻き込まれる。一人ひとりの書評に定型がない。昨年の刊行本を中心に5冊メドくらいの指標はあるのだろうが、ほぼみな勝手に書き散らかしている。
152人が夢中でおのれの読書体験をあらわにする。型を可能な限り崩し、一冊ほれ込んだ本に血道をあげ、あとは1、2行なんていうのが読ませる。庭を造る海外の営みの本の感想に、思わず知らず戦前の林達夫の名が出ちゃうと、おーっと感動せずにはいられない。理工系専門の識者が人文系の本をこんなに構造的に読むのかと驚いたり、同じ著者の本ばかり挙げる粋人がいたり。
人は読書の生態学を体験して、みなスッキリしている。世の中は悪くなるばかりとグチりながらも、読書の空気は人を自由にするのかもしれぬ。「たかが読書、されど読書」の思いを強くした。