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「占領下の学生自治会と学生運動」書評 複雑な状況下、学生たちの模索描く

評者: 隠岐さや香 / 朝⽇新聞掲載:2025年05月03日
占領下の学生自治会と学生運動 著者:田中智子 出版社:六花出版 ジャンル:一般

ISBN: 9784866172644
発売⽇: 2025/01/20
サイズ: 21.6×2cm/272p

「占領下の学生自治会と学生運動」 [著]田中智子

 大学は誰のものか。学生は大学の運営に参加出来るのか。大学の歴史の中で学生の存在は見落とされがちである。特に学生自治会については、戦後に占領軍の指導下で作られた、あるいは日本共産党の指導を受け活動した存在などと極端なとらえ方がなされてきた。
 本書は戦前および1945年から50年における東京大学、京都大学、早稲田大学、それぞれの学生自治会の由来について検証し、学生たちが自主的な活動としての自治会の在り方を模索する姿を描き出している。
 当時の状況は複雑であった。共産党は労働運動への学生の取り込みに期待したが、占領軍は共産主義者排除の姿勢を強めつつ学生団体設立を支援していた。他方、文部省や大学当局は学生の発言権拡大自体に抑制的であった。
 それでも当時の学生運動は、授業料値上げや占領軍による大学行政への介入に対する激しい抵抗運動の中核となり、戦後民主主義下での学生運動文化を形作った。
 時代が再び大きく動く今、この記憶は改めて想起されねばなるまい。