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「異形のヒグマ」書評 骨まで追う執念で「正体」に迫る

評者: 竹石涼子 / 朝⽇新聞掲載:2025年05月10日
異形のヒグマ OSO18を創り出したもの 著者:山森 英輔 出版社:講談社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784065385241
発売⽇: 2025/02/27
サイズ: 13.6×19.5cm/256p

「異形のヒグマ」 [著]山森英輔、有元優喜

 ヒグマは一般に木の実や山菜を中心に、昆虫なども食べる。サケをくわえた木彫りのクマはよく見かけるが、現実には、そんな姿は北海道では知床くらいだという。サケはヒグマのいる森にあがる前に捕られるからだ。
 だが、サケが遠くなっても、エゾシカが増え、ヒグマが肉にありつく機会は増えている。
 ヒグマが狩るからとは限らない。シカを食べる人間が減り、駆除で撃って放置された肉と遭遇する機会も増えている。
 「異形のヒグマ」OSO18(オソ・ジュウハチ)はそうした時代に森のなかで生を得た。
 2019~23年、北海道東部の牧場や放牧地で、牛を襲い続けた。目撃情報が乏しく、忍者のよう。きわめて慎重で、仕掛けたわなを巧妙に避ける野性の賢さ。集落の近くで生まれ、庭で一休みするような警戒心の低いアーバンベアとは異なる。
 OSO18とは、最初に被害が確認された標茶町(しべちゃちょう)オソツベツ(OSO)と前足跡の幅18センチとされたことにちなむ。無機質な名前が醸し出す恐怖とは裏腹に、最期はあっけないものだった。
 「害獣駆除」なら、そこで終わる。だが、報道を本業とする筆者たちは「正体」に迫ることを諦めない。肉がジビエ料理に供され、完全に姿を失っても、ダンプカー3台分の死骸や糞尿(ふんにょう)の山から、執念でOSO18と推定される骨を見つける。
 科学解析の結果、骨から見えてきたものはなんだったのか。
 その姿は、怪物とは違うようだった。OSO18はまだ若いオスグマ。なぜ森から牧場へ出てきたのか。等身大の姿にどこまで迫れたのか。詳細は本著に委ねたい。
 いま再び第2、第3のOSO18出現の兆しがあるという。森で何が起きているのか。クマの言葉が人間にわからない以上、本著のような傍証を積み重ねる意味は大きい。
 この本を読み終わったとき、少なくとも私のなかで、OSO18は怪物ではなくなっていた。
    ◇
やまもり・えいすけ NHKプロジェクトセンター・ディレクター▽ありもと・ゆうき NHK札幌放送局ディレクター