
「書くことは、たのしい。やめることはない。でも、ずっと1人で書くの?」。青山ヱリさんは、そんなさみしさで、2年前からブログサイト「note」に投稿を始めた。つづった小説がデビュー作になった。
1985年生まれ、大阪府出身。10代の終わりに手に取った川上弘美さんの小説に引き込まれた。自分でも書き始め、文学賞への応募を続けたが、「やっぱり読んでくれる人がいないとさみしいなと」。およそ20年が経って、初めて思い至った。
note主催の「創作大賞」に応募すると、朝日新聞出版賞に選ばれた。別の登場人物が主人公の物語を加え、「あなたの四月を知らないから」(朝日新聞出版)という本になった。
受賞作の「大阪城は五センチ」の主人公・由鶴は、39歳で、恋人はいない。仕事はいまひとつ。1年前、さみしさを募らせていた夜に、女性用風俗店のセラピスト、宇治に出会った。思いを寄せるが、3月で会えなくなると知り……。
「さみしさは、人が人を求める、もとになる気持ちだと思う」。さみしさが、様々な感情や行動を生んでいく。
由鶴は、もう会えない宇治の幸せを、最後にそっと祈る。恋をしたい。だけど、誰かの特別な存在になれなくても、自分がひとりとはもう思わない。広々とそう思えるまでをていねいに描いた。
「由鶴にも趣味があったらとも思うけれど、誰もが見つかるものなのか疑問だった。なくてもいいじゃないか。基本的な生活の営みそのものを慈しめるような小説を書きたかった」
これまでは、noteの仲間に向けて書いてきた。「今後は把握できる範囲を超えて読んでもらえるようになる。うれしいし、恐ろしい」。次は長編に挑戦するつもりだ。(堀越理菜)=朝日新聞2025年5月14日掲載
