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「カフカ俳句」編訳・頭木弘樹さん 「さっぱりわからない、でも何か予感が持てる」

頭木弘樹さん=本人提供

 「鳥籠(とりかご)が鳥を探しにいった」「おまえは宿題。生徒はどこにもいない」「人間の体のくっきりとした輪郭(りんかく)が怖(おそ)ろしい」――。

 チェコの作家フランツ・カフカ(1883~1924)がノートや日記に書き留めた短いことばを、自由律の俳句として味わってみようと提案するのが「カフカ俳句」(中央公論新社)だ。文学紹介者・頭木(かしらぎ)弘樹さんが訳し、解説を添えた。

 「絶望名人カフカの人生論」を始め、カフカの作品や言葉の魅力を様々な角度の本で紹介してきた。「訳しているうち、名言とも警句とも言えない断片的な言葉が、俳句に似ていると感じた。解釈の幅がすごくあります」

 学生時代に難病の潰瘍(かいよう)性大腸炎を発症。自分の中の生き生きした鳥が逃げてしまったような気持ちと、「鳥籠が……」という言葉とが重なり合い感動したという。そうした解説を“句”に添えたのは、読者それぞれの思考の呼び水になればという気持ちから。

 「俳句に限らず、たとえ作者本人の説明であっても、唯一の正解というわけではない。『すごくわかる』だけでなく、『さっぱりわからない』という読書体験があってもいいと思います。何を言っているのかわからない、でも何か予感が持てる、なんだかひかれる、そんな色々な扉が開けっ放しなのがカフカの世界」

 カフカの突き抜けた絶望を凝縮した言葉は、期せずして一種のユーモアさえ感じさせる。かつて入院中に点滴スタンドとともにトイレに駆け込む頭木さんに、すれ違うお年寄りは「若い人は元気でいいねえ」とつぶやいた。「チャプリンも『人生はクローズアップで見れば悲劇 ロングショットで見れば喜劇』と言いました。はるかに下の方から弱きもの、小さきものとして世の中を見ていたカフカの視点は、俳味にもつながるのかもしれません」

 言葉の断片や未完の作品にこそ、カフカの魅力が詰まっていると考える。「完結させる努力にとらわれないところで得られる飛躍がある。カフカの世界にはまだまだ開拓の余地があります」(藤崎昭子)=朝日新聞2025年6月11日掲載

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